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終末の地:prologue & epilogue

Carpe diem
33,740 文字
両者とも記憶あり(クラウドだけ一部記憶なし)のセフィクラ逆行ものです。即行動するセフィロスと逃げようとするが逃げられなかったクラウドの話。
※捏造過多、クラウド十四歳
リメイクでセフィクラにハマりました……。一応、R→原作→CCとクリア済でACCも視聴済ですが、一周しただけの知識なので設定をちゃんと理解しきれてない部分があるかもしれません。
表紙お借りしました→illust/48121236

追記:コメント、感想ありがとうございます!とても嬉しいです。続きは今の所考えてないんですが、もし何か思いつけば書けたらいいなと思います。

R-18セフィクラ腐向け逆行なにこれすごいあなたが神かFF小説300users入り続きを全裸で待機!!控えめに言って最高

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3,551
2020年7月25日 20:38



 男は終焉を見届ける、たった一人の観客だった。
 地表は割れ、星は既にその形を保っていられなくなっていた。空さえ崩れ、銀河を漂う男のいる場所は、最早星とは呼べなくなっている。

「終わりか」
 呟きは空虚に響いた。
 男が崩壊の時に思い浮かべるのは、たった一人の存在だった。輝く金の髪を持った青年。幾度も剣を交え、男を唯一葬った存在。
 かつて男の頭を占めていたのは母の存在であったが、今自然と思い浮かべるのはその青年の姿だった。しかしその存在は永遠に失われてしまっていた。そのことに男は自嘲した。
 脳裏に灼き付いた姿があった。男を焦がす衝動はいつだってその青年だった。名付けようのない感情の行き着く場所を男は知らない。ただ男が失われたその存在を欲していることだけは確かだった。
 男と青年の絆は、青年の存在とともに喪失した。
 己が完全に青年を支配していれば、結末は違っただろうか。もっと強く繋がっていれば分かたれることはなかっただろうか。それともさっさと一つになっていれば良かったのか―――いいや、と男は首を振った。
 同じ存在になりたい訳ではない。男は思う。違う存在のままあの青年を手に入れ、一つになりたかった。触れて、言葉を交わして、支配して、踏みにじって、優しく囁いて、あの瞳に自分だけが映りたい。そうして最後に男の元へ堕ちて来ればいい。それが男の望みであった。
 ―――――クラウド。
 名を思い浮かべても、唇にその名を乗せても、意味もなく虚空に溶けていく。ただ身体を焦がす衝動が行き場もなく暴れるだけだった。

 星の残り滓が更に砕け、粒子となり消えていく。星の欠片が男の長い銀髪を擦り抜けていくが、それを男は特に何の感慨もなく見ていた。
 しかし、ある一点の場所が男の目に留まった。
「―――……何だ?」
 男は星の残滓が最後のエネルギーを集めていることに気が付いた。それはライフストリームと呼べるのかすらもう分からない。それでも光り輝くものが、そこに集中していた。
 男はそれに近付いた。他にすることもなく、消えるだけならば何かをした方が幾らかましだった。そう思い、男がそれに手を伸ばした瞬間、光が弾けた。光が溢れ、やがて男の視界は白に染まった。
 男は自分の形が崩れ、同時に再び形作られていくのを感じていた。その過程の中で、焦がれた青年の姿を見た気がした。


 そして次に目覚めた時、男は懐かしい地に立っていたのだった。


 懐かしい匂いがする。
 朧げな記憶の奔流に身を包まれるように瞼を開くと、記憶の奥底に仕舞っていた見慣れた天井が目に入った。
「…………ん、」
 見慣れた?―――ここはどこだろう。自分は何をしていたのだったか。柔らかなシーツの感触に身を委ねながら、クラウドは覚醒しきれない頭で考える。
 長い時を生きて来た。余りに長い時を生き過ぎて今の自分が時々分からなくなる時がある。今回もそれだろうか。昨日のことのように鮮明に思い出せるものもあれば、摩耗し風化していった思い出もある。どの時点が今の自分で、どこまでが現実なのか。深い眠りについた後に目覚めると、たまに混乱する時がクラウドにはあった。
 しかし微睡みの中で静かな思考に耽っていたクラウドは、響いた声に一気に現実へと引き戻された。

「クラウド?いつまで寝てる気だい」

 クラウドは目を見開いた。ベッドからすぐさま起き上がる。
 ―――――懐かしい声。
 心地良い音が耳を打つ。クラウドは泣きたくなった。何故ならそれは遠い過去の日常の一つであったものだからだ。
 それは、母の声だった。クラウドが救うことの出来なかったものの一つ。今でも鮮明に思い出せるものの一つだった。
 吸い寄せられるようにクラウドは部屋から飛び出した。足が縺れそうになりながら見た先には、確かに母がいた。キッチンで朝食を作っているのか後ろ姿しか見えない。しかしその姿はクラウドの母のもので間違いなかった。
 固まっているクラウドには気付かない様子で、こちらを振り返らないままに「起きたの?ねぼすけさん」と悪戯っぽい優しげな声が空間を包んだ。
「かあ、さん」
 掠れた声は自分の記憶よりも僅かばかり高かった。そのことに違和感を感じるとともに、クラウドは自分の身体がいつもより身軽であることに気が付いた。目線も低いような気がする。
 ドクリ、と心臓が音を刻む。何かおかしい。クラウドは固まっていた身体の緊張を解くと、すぐさま鏡へ向かって走り出す。けたたましい音を立てたクラウドに母の驚いたような声が聞こえたが、クラウドはそれを気にしている余裕はなかった。
「―――……な、に?」
 鏡の前でクラウドは立ち尽くした。映った姿に目を見張る。口の中がカラカラに渇くようだった。確かめるように己の顔を指で撫でれば、目の前に映ったものが同じ動きをする。
「嘘、だろ」
 呆然と呟いた視線の先には、少年がいた。肩口あたりまで伸びた金髪を後ろで一つ括りにしており、瞳は魔晄に染まる前の深い青の色彩を宿している。
 そこには、十四歳の時のクラウドが呆然とした表情で立っていたのだった。





 クラウドは混乱していた。
 鏡に映った自分はまだ幼く、十四歳の姿をしていた。まさか今までのことが全て夢だったとでもいうのか。故郷が焼かれた時の哀しみと憎しみ。親しい人の死。仲間との出会いと別れ。ジェノバと―――、そしてセフィロスとの闘い。
 星にメテオを落とし、その傷に集まったエネルギーを己のものにしようとしたセフィロス。その怖ろしい計画をクラウドとその仲間たちが防いだ。しかし星の破壊を阻止した後も、幾度かセフィロスはその姿をクラウドの前に現した。
 宿命に引き寄せられるように剣戟を結んだ在りし日を思い出し、クラウドは沈黙する。クラウドは植え付けられた細胞の特性から、一人長い時を生きて来た。その際、何度か甦るセフィロスとも闘って来たのだ。
 ―――――しかし、それからは?
 長い時を生きた記憶はある。セフィロスとも幾度か闘った。また、星は緩やかに終末へと向かっていたはずだった。自分は星の終末に立ち会ったのだろうか―――……それすら、覚えていない。数千年を生きた記憶は確かにあるのに、こうなる直前の記憶は曖昧で、どうにも思い出せなかった。

 そして現在、気持ちの整理が未だついていないクラウドは当てもなく村を歩いていた。
 過去の情景を夢に見たことは何度もある。しかし夢と断じるには、クラウドの今いる空間はあまりにも現実じみていた。頬を撫でる風の感覚だとか、触れる物の温度だとか、村に響く穏やかな住人の笑い声だとか、そういうものが懐かしさと同時に確かな現実感を与えていた。
 既に一日が過ぎた。一日目は現状を把握することしかできず、クラウドが把握できたことといえば、ここは確かに十四歳の頃のニブルヘイムだということだけだった。
 田舎の村にすら届いて来るのは英雄セフィロスの噂。この時点のセフィロスは変わらず英雄としてその名を轟かせている。だからこそ、このような小さな村でもセフィロスは憧れの対象として慕われていた。そのことに複雑な気持ちを抱きながら、その日のクラウドは自分の頭を整理することに専念したのだった。
 そして二日目の今日、クラウドは何をするでもなく、ただ村を歩き回っている。自分に友達はおらず、遊ぶ相手もいないのだから当然だ。精神年齢が跳ね上がっている今、過去の自分の状態に苦笑を漏らすことしかできない。随分捻くれた性格をしていたものだ、と思う。そうは思うが、今の自分も捻くれてないとは言い切れないのであまり過去の自分を責めてもいられなかった。
 今の自分ならば上手くやれるだろうか。ふと、少年時代に蓋をしていた気持ちが顔を出す。寂しさを誤魔化すように自ら周囲と距離を置いていたあの頃。もっと素直になれば今なら友達になれるのだろうか。一緒に遊んだりも―――……、
 そこで思考が止まった。クラウドは自分で自分に驚いていた。まさか今更このような感情を持つとは思わなかったからだ。いくら懐かしいと言っても、一緒になって遊びたいと思うほど今のクラウドの精神は幼くない。しかし先程抱いた感情は確かなものだった。
 ―――――まさか十四歳の身体に精神が引っ張られているのか。
 クラウドとしては長い時を過ごした、十分成熟した精神のままでいると思っていたが、意外とそうでもないのかもしれない。幼い頃の感情を今もこうして揺さぶられるというのは不思議な感覚だった。
 思考に耽りながら歩いていると、同年代の二人の少年の姿が目に入った。彼らはクラウドに気付かない様子で楽しげに話している。そのことにやはりどこか羨ましさを感じていることに思い当たり、クラウドは苦笑した。過去に精神だけ戻って来たばかりだからか、まだ身体と精神が馴染んでないのかもしれない。クラウドはそう思うことにした。
 そんな時、新たに一人慌ただしい様子で走って来た少年がその輪に加わった。全速力で走って来たようで息が上がっている。クラウドも自然と注目してしまって見ていると、その少年たちの興奮したような声がクラウドの耳に飛び込んできた。
「英雄セフィロスがこのニブルヘイムに来るんだってよ!」
「本当かよ!?あの英雄が?」
「すっげー!」
 熱のこもった少年たちの声が響く。同時に、クラウドの身体が凍りついたように固まった。
「えっ、えっ、いつ?いつくんの?」
「明日!」
「え~~~!?急すぎじゃん!」
「何でも急にセフィロスが視察に来たいとか言い出したみたいで―――、」
 途中から少年たちの声はクラウドに届かなくなった。鼓動が早鐘を打つ。
 ―――――セフィロスがニブルヘイムに来る?
 セフィロスがニブルヘイムに来るのはクラウドが十六歳の頃だ。その時、クラウドは一般兵として同行していた。それ以外でニブルヘイムに来たことはないはず。少なくともクラウドが生まれてからの記憶ではそうだ。
 それにタイミングが重なりすぎている。クラウドが昨日かつての記憶とともに目覚めてからの、このセフィロスの動き。偶然と片付けるのは難しい。
 嫌な汗が流れる。ざわざわと胸騒ぎがする。今、クラウドは最悪の事態を想像している。それは―――……、
「セフィロスにも、記憶が……ある?」
 言葉にすると身体が震えた。クラウドに今も傷を残す喪失の記憶。セフィロスによって奪われた命。そして、セフィロスとの幾度もの闘い。
「だとしても、早すぎる……!」
 まだ目覚めて二日目。クラウドは現状の把握だけで精一杯だというのに。いくら何でも行動が早すぎる。クラウドは頭を抱えた。
 セフィロスが先の記憶を残したまま自分のように過去に戻ってきているのだとしたら、きっとここにはクラウドを殺しに来るはずだ。そしてジェノバをも手に入れるつもりなのかもしれない。だとすれば、エアリスも危ない。何せ彼女はたった一人の古代種なのだ。セフィロスが見逃すとは思えない。
 しかし今のクラウドはただの非力な少年だった。ソルジャーに匹敵する能力も当然有していない。セフィロスがこのニブルヘイムに到着すれば、抵抗も虚しく虫けらのように殺されるだろう。ミッドガルにいるエアリスのことも、今は無事を祈ることしかできなかった。
「……っ、逃げないと」
 セフィロスから逃げなければ。セフィロスを止められるのは未来を知る自分だけだ。そのためには何としてでも生き残るしかない。セフィロスがどういう考えでいるかはわからないが、未来でセフィロスを殺すクラウドは目障りな存在に変わりないだろう。
 しかしこうなってしまっては、神羅に入りソルジャー同等の能力を得られる機会を失ってしまうことになる。クラウドは今の自分であればソルジャーの適性にも合致できるのでは、と淡い期待を持っていた。魔晄適性が一番の課題とはいえ、再びソルジャー試験に挑んでみる価値はあると思っていたのだ。精神が肉体に与える影響はゼロとは言い難い。果てには、村の人々、エアリスやザックス、それにセフィロスでさえも、自分の行動次第では破滅から遠ざけられるのではと、漠然とそう思っていた。
 それもセフィロスがクラウドのように記憶を持っているのならば、前提から覆る。セフィロスがクラウドと同じ状況にあるというのはあくまでも仮定の話だが、かといって楽観視できるはずもない。セフィロスに記憶がないのならそれでよし。それが判断できない以上、クラウドはセフィロスから身を隠す以上にいい考えが思い付かなかった。
 ―――――とにかく、逃げるしかない。
 正直この状況で今の自分に何ができるのかわからない。それでもいい。逃げて、その後でどうするかは考える。そう、例え何もできなかったとしても。クラウドは一人決意した。
 タイムリミットは明日。ということは今日中に村を出ていかねばならない。クラウドは必死に頭を働かせる。
 そのためには、やはり協力者が必要だ。クラウドは村の奥にある神羅屋敷に目を向ける。あそこの地下にはかつての仲間であったヴィンセントが今も眠っているはずだ。何とか協力を取り付けたい。
 日が出ている間は嫌でも目立ってしまうので、実行に移すのは日が暮れてからだとクラウドは結論付けた。時間がない。クラウドは踵を返し、家路を急いだ。帰る途中で黒髪の少女の姿を目の端に捉えたが、クラウドは一瞬足を止めただけで、その後は振り返らずに走って行ったのだった。

終末の地:1

 星はその命を終えようとしていた。
 膨大な時の流れが収束するように、星の血液ともいえるライフストリームが荒廃した地を静かに漂っている。大地に芽吹いていた生命は見る影もなく、ただただ乾いた地表が一面に広がっていた。その哀れな大地をまるで慰めるかのようにライフストリームが緩やかに地を撫で上げる。
 その地に一人、青年が佇んでいた。いや、一人ではない。青年に対峙するように、もう一人男がその背後から青年を見ていた。
「……星は力尽きてしまうみたいだな」
 青年は背後を振り返らずに言った。ライフストリームの波に揺られ、青年の鮮やかな金髪が揺れていた。
「何を考えている」
 男が言う。男は美しい銀の髪を靡かせながら、目の前の青年の答えを待っていた。
「星は選ばせた。滅ぶ前に星に還るか、最後を星とともに見届けるか」
 青年と男は星に二人きりだった。発展を遂げて来た地は、果てなき時を重ねるにつれ生命の輝きを失っていった。星の寿命は定められており、それを何とか引き延ばすために人々は努力したが、それでもこうして終わりの時は訪れた。それは必然的な結果だったのかもしれない。
 やがて生きる人々は長い時を経て星に還り、新たな生命も生まれなくなった。緩やかに、だが確実に、星は終わりを迎えようとしていたのだ。
 しかし青年は星に還ることを何より星自身から拒まれていた。それは背後の男が星に脅威を齎す者だったからだ。青年と男は宿敵であり、青年は男を殺した唯一の人間だった。それ故に青年は男への対抗兵器として残された。それこそが青年が星から負わされた、数千年にも及ぶ使命でもあったのだが、それももう星自体が死に絶えれば必要なくなることであった。
 青年の身体は特殊だった。老いを知らず、肉体は衰えない。だからこそこうして終末の時まで生きて来た。そして、それは男も同様だった。むしろ青年よりも男の肉体の方が特殊さでは上といえるのかもしれない。
 男の肉体は死を迎えた上で、青年の記憶を介して甦ることが可能だった。それはライフストリームで強固な精神を保つことができた男だから成せた業だ。星は男を削ぎ落とそうとしたが、男はそれを頑なに拒否した。
「―――なんとなく、あんたは来るんじゃないかと思ってた」
 誰に聞かせるでもなく、青年は呟いた。それは極々小さな声だったが、男の耳は正確にそれを拾った。
 星の胎内にいた頃、男は終末の時を感じ取っていた。それに対して男が最初に思ったことは、目の前の青年のことだった。男は何故か「会いに行かねば」と強く思った。
 男は急速に自身を形作ろうとした。それは容易なことではなく、実際成功したことは今までなかったが、この時ばかりは星が男の復活を許した。星に流した記憶を男に戻し、青年なしでも男は完全に元の形を取り戻すことが出来たのだった。何故星がそうしたのかは分からない。どうせ星は滅ぶのだから、最後の気紛れに男に恩赦を与えただけだったのかもしれない。
 やがて己を形作った男は、青年を探した。男にとって青年の所在は手に取るように分かった。
 そうして辿り着いた先に、青年はいた。青年は一人きりで荒れ果てた大地に取り残されていたのだった。

 大きな門扉が堅牢なイメージを見る者に与える、神羅屋敷。クラウドは日が暮れ始めた頃合いを見て、その屋敷に忍び込んでいた。身軽な身体は忍び込むには丁度いい。中の構造も頭の中に入っているので迷うこともないだろう。
 クラウドは慎重に歩を進めながら素早く二階へ続く階段を登る。屋敷内のどこかじめじめとした湿っぽさはあまり気分の良いものではないな、とクラウドは少しだけ眉を顰めた。元々いい思い出があるわけでもない。
 勝手知ったる様子のクラウドは、真っ直ぐと地下室へ続く一室へと急いだ。埃っぽさがより屋敷の不気味さを演出しているようで、相変わらずお化け屋敷のようだった。

「……ここだ」
 神羅屋敷の二階にある一室。クラウドはそこでやっと一息ついた。存外に緊張しているらしい。クラウドは心を落ち着けるために、ヴィンセントを起こした後のことを考えた。
 荷物はクラウドの自宅にまとめてある。クラウドが家に帰って一番にしたことといえばそれだった。必要最低限のものだけ詰め込んだので、思ったよりも重くはない。母のクラウディアはその時にはまだ出掛けていたので不審がられる心配もなかった。
 母には何も告げずに出て行くつもりだった。何か情報を残せばセフィロスは勘付く。自分が逃げたことで村や母が危険にさらされることも考えたが、クラウドの居場所さえ見付からなければ、村を盾に脅すこともできないだろう。
 他にも問題は山積みだった。逃げる過程で神羅屋敷に残る研究資料や魔晄炉のジェノバも焼き払ってしまうのが一番いい。流石に今の自分では一人で強力なモンスターに襲われて勝てるとは思えないので、何としてでもヴィンセントは叩き起こして連れて行く必要がある。幸いにも彼の興味を引く情報には事欠かない。後はどう説得するか、それはクラウドの手腕にかかっていた。
 ヴィンセントはどう反応するだろう。クラウドは思う。自分が未来を知っていると言ったら正気を疑われるだろうか。懐かしい仲間の姿を思い出し、クラウドは自然と笑みを零した。
 脳裏に一緒に闘った仲間たちの姿を思い描くだけで、心が温かくなるようだった。
 ―――――約束、できなかったな。
 黒髪の少女との大切な思い出。給水塔で彼女のピンチには必ず駆け付けると誓った約束は、今回はできなかった。
 それでも、必ず駆け付けよう。クラウドは心の中でそっと誓った。黒髪の少女―――ティファが助けを求めるのなら、何度でも。
 優しい記憶に自然と力が湧いてくる。クラウドは前を見据えた。
 少しばかり呼吸を整えてから、一歩踏み出す。この隠し階段を下りて行けば―――、


「―――クラウド」
 男の声が、静寂を割った。瞬間、クラウドの世界に影が一つ降りた。


 低く甘さの感じる声が響いたかと思えば、クラウドの身体は力強く背後から抱き締められていた。頭上には影がかかり、左右には美しく流れる銀髪が見えた。
 クラウドは動かない。否、動けなかった。
「クラウド」
 全く気配を感じなかった。
 背後の男の左手がクラウドの首筋にかかる。無機質な革のグローブのはずなのに、触られた箇所は酷く熱い錯覚に陥った。力を入れられれば、その細い首筋はすぐに破壊されてしまうだろう。
 どうして?何故ここにいる―――、
「セ、フィロス」
 呟いた声は微かに上擦っていた。
「震えているな、クラウド。私が怖いか?」
 歌うような声が響く。確かめられるように喉元を撫でられ、クラウドの身体に緊張が走った。その様子を背後から見ていたセフィロスは艶やかに微笑んだ。
 クラウドの顎を左手の指先で上向けると、よりきつく右腕を腰に回して引き寄せる。そうして屈み込んで幼い少年の右耳へと唇を寄せた。
「ここに来たということは当然記憶があるな?」
「……!」
 ビクリと震えた身体に、セフィロスは笑みを深める。クラウドの耳朶に艶を含んだ吐息がかかった。
「安心した。お前の記憶がなければ、また同じことを繰り返す羽目になっていた」
「……どういう意味だ」
「私を殺したお前でないと意味がないと言うことだ」
 セフィロスの指がクラウドの唇をなぞる。それを振り払うようにクラウドが背後を睨むと、瞳孔が縦に裂けた魔晄に輝く瞳とかち合う。
「私はいつでもお前の傍にいる」
 まるで祝福を与えるように、形のいい唇は呪いの言葉を紡ぐ。クラウドは己を抱え込んでいるセフィロスの腕を引き剥がそうと試みるが、びくともしなかった。
「幼いな」
 するり、と服の上から身体の線を確かめられるように撫でられ、背筋が粟立つ。
「……お前のこの姿は初めて見る。髪を伸ばしていたのか」
 抱き込んだクラウドの身体を正面に向かせると、セフィロスの右手は輪郭を辿るように肌に触れる。左手は後ろに流れる金糸の髪を梳くように指を絡ませた。
「触るな」
 クラウドが己の髪に触れるセフィロスの手を払う。この状況でセフィロスに歯向かうことは得策とは言えなかったが、クラウドにも意地がある。震える身体を意志の力で抑え込む。例え今の自分が無力であろうとも、セフィロスに抗ってやろうとクラウドは思っていた。
 強い意志を宿す瞳を見つめ、セフィロスは目を細める。
「変わらないな。いいことだ……だが、」
 セフィロスが言葉を切る。
「ここで仲間に頼ろうとしたな?―――悪い子だ」
「―――っ!?」
 突然セフィロスは左手をクラウドの細い首にかけ、近くの壁に勢いよく叩き付けた。そして強い力で首を絞めたまま、その身体を壁伝いに片手だけで持ち上げる。
 地面から浮いてしまった足をクラウドは必死になってばたつかせるが、苦しさが増すばかりで何にもならない。酸素を求め、喉が掠れた呻きを漏らす。喉元に食い込んだ手を両手で引き剥がそうとしても、セフィロスの指は一本足りとも動かなかった。
 苦しみに喘ぐクラウドの口からは唾液が滴り落ちる。セフィロスはクラウドを壁に押し付けたまま、そこへ舌を這わせて舐め取った。首を絞める手はそのままに舌先は唇に向かう。セフィロスが噛み付くように口付けると、クラウドはその激しさと苦しさに眩暈を起こした。
「あっ、……んん、っは、ぁ」
 肺が酸素を求める。クラウドが取り込もうとする酸素のを全て奪うかのごとく、相手の舌先がクラウドの咥内を犯していた。今や生殺与奪の権は完全にセフィロスの手に握られており、クラウドは微かな空気を肺に入れることにしか集中できない。
 やがてクラウドの意識が落ちかけた頃、セフィロスはやっとクラウドを解放した。クラウドの身体は重力に従い、為す術もなく崩れ落ちる。地面へと強かに打ち付けた腰を気にする間もなく、必死になって周りの空気を取り込んだ。
「くっ、かは……っ」
 クラウドは噎せながらセフィロスを見つめる。涙が滲み、僅かに視界がぼやけている。そのせいで相手がどのような表情をしているのか分からなかった。
「随分とか弱いな?クラウド。まぁ、ソルジャーの力がないのだから当然か」
 セフィロスはそう一人で納得すると、床にへたり込んでいるクラウドの身体を無理やり立たせる。
「……やめ、ろ」
「久々の再会だというのに冷たいことを言う」
 セフィロスが何をしたいのかわからない。まるで遊ぶようにこちらを甚振っているように思え、クラウドは眉を顰めた。
「何で、殺さない……」
 クラウドの問いにセフィロスは不愉快そうに片眉を上げた。
「殺す?馬鹿げたことを。お前を殺したところで何になる」
 さも当然、と言わんばかりに紡がれた言葉だが、クラウドにとってはセフィロスが自分を殺しに来たという方が自然に思える。
「何になる、って……あんたと俺が殺し合い以外に何をするって言うんだ」
 数千年間、顔を合わせる度に闘ってきたのだ。セフィロスがクラウドを殺す気がないことの方が驚きだった。そうだというのに、セフィロスの反応はまるで予想と違うものだった。
 セフィロスは僅かに目を見開くと、まじまじとクラウドを見つめた。その視線にクラウドは何だか居心地の悪さを感じて閉口する。
「なるほど。どうも違和感があると思っていたが―――記憶に多少の齟齬があるな」
 セフィロスは顎に手を当てると、一人で納得している。
 記憶に齟齬があるというのはどういう意味だろう。クラウドは考える。セフィロスはそんな訝しげな表情をするクラウドを一瞥すると、静かに言葉を継いだ。
「遠い未来、星は力尽きた」
「……」
 確かに星は滅びに向かっていた。それはクラウドも理解していたし、今から先の未来で星の輝きが失われていることを実際に目の当たりにしていた。ただ最終的に星がどうなったのか、クラウドにはその記憶がない。それどころか自分が未来のどの地点にいたのかさえ曖昧だった。それでも数千年の時間を生きた記憶は確かにクラウドの中にある。だから星が滅んでしまう前に過去にこうして戻って来たのかと思っていたが、セフィロスが「星は力尽きた」と断言したことから、どうやらそうではないらしかった。
「あんたは星の最後を見届けたのか」
 セフィロスはクラウドを見る。やがて自嘲するような冷笑を浮かべた。
「正確には最後を見届ける少し前、だったがな」
「俺は……どうしてたんだ」
 セフィロスがいたということは、記憶はないが即ちクラウドもそこにいたということだ。何せクラウドはこの男の対抗措置のために星に生かされていたといっても過言ではない。星の最後に自分はどうしていたのか。まさかセフィロスと二人仲良く星が滅ぶのを眺めていた訳でもあるまい。
「お前は―――、いなかった」
「いなかった?あんたに負けたってことか?」
「……さぁ、どうだろうな」
 セフィロスは遠くを見つめるように目を細める。クラウドは追及しようとしたが、セフィロスはそもそもそれ以上の説明をしようという気がないようだった。クラウドには今のセフィロスが何を考えているのか皆目見当もつかなかった。
「あんた、何を考えてるんだ」
 つい、思ったままの疑問が口を突いて出る。クラウドとセフィロスの視線が重なる。
「お前のことを考えている」
 間髪入れず返ってきた言葉に、クラウドは自身の置かれた状況も忘れて呆けたように口を開けた。あまりに予想外の答えが返ってくると、どうやら人は思った以上の間抜け面を晒してしまうらしかった。
「今度は何を贈ってやろうか。どう支配してやろうか、どう懇願させてやろうか……お前はどんな風に泣き叫んでくれるのか。……まぁ、そんなところか」
「…………」
「半分は冗談だ」
 半分って何だ。物騒な発言をした後、真顔で冗談だと言う男に、クラウドは更に反応に困った。
「あんた、一体……」
 どうしたんだ、という言葉は呑み込んだ。目の前のセフィロスはクラウドを一方的に甚振ったかと思えば、他愛のない会話を挟む。セフィロスから伝わる気兼ねの無さが違和感を生んでいた。
 セフィロスも過去に戻ったことで多少記憶の混濁でもあるのだろうか。クラウドは訝しげにセフィロスへ視線を向ける。その視線を受け止め、セフィロスは一言だけそっと零した。
「―――仕返しだ」
「仕返し?」
 クラウドは思わず聞き返す。仕返しとは、復讐と何か違うのだろうか。セフィロスにクラウドを今の所殺す気がないようなので、別の目的があるのかもしれない。
 セフィロスはそんなクラウドを見つめ、溜息を吐いた。
「記憶はあるのに、お前はいつも肝心なことを忘れているな」
 忘れている?クラウドは更に訳が分からなくなった。
「どういう―――、」
 意味だ、と言おうとした言葉は、セフィロスに阻まれる。
「お前が最後に選んだものが気に入らない」
 セフィロスの表情が忌々しげに変わる。人間らしいその表情に、クラウドは動揺した。見つめた先のセフィロスの瞳には、クラウドだけが映っている。
「だから、その仕返しだ。何にせよ、お前にとって私が障害になるのは変わらない」
 セフィロスの言っている意味がクラウドには理解できなかった。「最後に選んだもの」というのは何のことだろう。
 セフィロスの話を信じるのであれば、星が力尽きてしまうその時にクラウドはその場にいなかったという。それならば、その前に自分は死んだということだ。しかし星に還ることを拒まれていたクラウドを殺せるのはセフィロスだけであったので、クラウドが死ぬということはセフィロスに殺されたと思う他無いのだが違うのだろうか。いくら考えを巡らせても、クラウドには分からなかった。
 クラウドが最後に選んだもの。それが気に入らない、と言うセフィロスは間違いなくクラウドの最後に立ち会っている。自分は目の前のこの男に、最後に何を告げたのだろう。そして何を選んだというのだろう。自分のことなのに何か忘れているという感覚が、どうにも引っかかっていた。
 ただセフィロスの言う仕返しとやらが自分一人に関わるのであれば、それは裏を返せばセフィロスが自分に構っている間は少なくとも星や大切な人々に危害は及ばないということでもあった。それだけでもクラウドにとっては僥倖だ。
 考え込む様子のクラウドに対し、セフィロスは調子を取り戻したように鼻で笑う。
「あの時のように村を焼かれたくはないだろう?お前が私と来るならば手を出さない」
「…………っ、」
 クラウドの考えを見透かすように、セフィロスは言う。
「言って置くが別れの挨拶をしている暇はないぞ。お前を連れてすぐにここを発つ。明日は同行していた兵士だけが慌ててここへ来るはずだ」
「……そうだ。あんたここに来るのは明日って、」
「確かに予定は明日だった。この地位は使い勝手がいい分、窮屈でな。私がミッドガルから出るのにも色々制限がある。視察の名目で何人かの兵士を同行させることを条件に許可が下りた」
 溜息とともに吐かれた台詞に、クラウドは在りし日の英雄の姿を思い出した。憧れの存在だった男。こうして神羅のことを知ったように語るセフィロスは、まるでかつての英雄がそこにいるかのように幻視する。
 己の考えを打ち消すようにクラウドは頭を振った。もう英雄セフィロスは存在しない。
「許可など取り付けなくともよかったが、お前を連れて帰るとなれば要らぬ問題を起こすのは本意ではないからな」
「なのに、結局一人で来たのか」
「私が来ることは伏せておけと言ったのに漏らすからだ。それでお前も私が来ることを知ったのだろう?知ればお前は逃げるだろうからな。兵士は置いて先に来た」
 つまりどちらにしろクラウドは詰んでいたという訳だ。セフィロスが来ることを伏せられたままであれば自分は気付かずにセフィロスと鉢合わせたであろうし、逆にセフィロスの来訪に気付いたところでこうして先手を打たれてしまっている。
「それで、だ。お前に選択肢はないが、どうする?クラウド」
 選択肢はないと言い切るその口で、敢えて選ばせようとする男の性根の悪さにクラウドは渋面を作る。それをセフィロスは楽しげに見つめていた。
「……あんたと、行く」
「フ、では行くとしよう」
 クラウドの低く唸るような声に、セフィロスは笑うとクラウドの身体を担ぎ上げた。
「おい!なにす、」
「軽いな」
 抗議するクラウドを意にも返さずセフィロスは言う。その言葉が何だか馬鹿にされているようでクラウドは思わずカッとなる。
「降ろせ!セフィロス!」
「騒ぐな。村の人間に気付かれる前にここを出る。そこからの移動手段は手配済みだ」
「そういうことじゃない……!自分で歩ける!」
「運んだ方が早い」
 淡々と紡がれる言葉にクラウドは更に腹を立てる。
「人を荷物みたいに言うな!」
「所有物、という点では間違いではあるまい」
「誰が……っ!」
 所有物だ、という言葉はセフィロスの「スリプル」という呪文にかき消された。抗いがたい睡魔がクラウドを襲う。そのまま深く暗闇に沈んで行くように、クラウドは眠りに落ちて行った。

終末の地:2

「俺は星に還る」
「……私を野放しにするのか」
 男は意味の無い言葉を口にした。確かに男は星にとっての脅威であったが、それはもう過去の話だった。男が今更どう足掻こうが、運命は決まっていた。
「星が滅ぶ時まで、あんたのお守りはしてられない」
 星が滅ぶ今、二人が闘う理由など有りはしなかった。
 では何故自分は青年に会いに来たのか、と男は自問した。どうせ消えて無くなるならば、星の胎内でじっとしていればよかった。しかし男はそれが当然であるかのように青年の元へ会いに行った。
 闘いたかったのだろうか。闘う理由もないのに?―――どうだろう。
 闘うことで、青年の意識を独占できるのならばそれでもよかった。少なくともその時だけは、青年の思考は男に集中していたからだ。
 だが、青年の答えは違った。
「何をしようが、どの道あんたも星と最後をともにするだけだろう。……早いか遅いか、それだけだ」
 青年は男を選ばなかった。最後の時に選んだのは、男ではなく、星だった。いや、星というよりは星に生きた彼の仲間たちだったのかもしれない。ライフストリームに流れる記憶が青年を誘っているのだと思うと、男には不快だった。
「やっと還ることを許してくれたんだ……」
 青年の言葉には万感の思いが込められていた。長年青年を拒んでいた星が、今は彼を受け入れようとしている。それに心底安堵しているような、そんな態度が全身に表れていた。
「お前は、」
 青年は耳を傾けているが、視線は一向に男に合わせない。男が見つめているのは彼の背中だった。それが酷く腹立たしい。
「お前は私ではなく、星を選ぶのか」
 つい、男は恨みがましいことを口にした。青年が笑う気配がした。
「何だそれ」
 青年の纏う雰囲気は穏やかだった。男が目にする青年は、穏やかさとは無縁だったためそれがとても新鮮に感じる。
 男と青年は宿敵同士ではあるが、同時に同じ細胞を持った唯一の絆で繋がれた相手だった。
「こうやって果てしない時を生きて来て……いくつもの時代が変わった。色んな人々と出会った」
 青年の声には、今や男に対する緊張だとか、怯えだとか、憎しみだとか、痛みだとか―――そういうものは一切含まれていなかった。男にはそれが不愉快だった。まるで青年にとって男は特別ではないと言われているかのようで、それがどうしても許し難かった。
 青年は男の思いには気付かずに、ただ淡々と言葉を紡ぐ。
「でも最後まで俺の傍にいたのって、あんただけだったんだよなぁ……」
 青年が苦笑する。怒りや悲しみや憎しみを忘れたことはなかった。許すつもりもなかった。それでも、青年が存在する場所に男は必ず存在した。彼の仲間がその儚き命を全うした後も、男だけは必ず青年の前に現れた。
 長い長い時の中で、忘れることを許さないというように青年を捕らえて離さなかったのは、男だけだった。
「……もう、あんたと闘わなくてもいいんだな」
 青年が実感するように呟く。その言葉に、男は僅かに動揺した。まるで闘いたくないと言っているようだった。闘いを取り去った自分たちの関係は何処へ行き着くのか。男は初めてそれを想像した。
 ただ、それを想像するには遅すぎたのだった。

 クラウドが目覚めたのは、やけに上質で無駄に大きなベッドの上だった。強制的に眠らされたからか、覚醒してからも頭があまりはっきりしない。柔らかなベッドカバーの存在が眠りを誘うが、それでも再び眠る訳にもいかないので仕方なくクラウドは上半身を起こした。覚醒したての身体は動かすのが億劫で、クラウドの動作は緩慢になっていた。しかしそこでやけに肌寒いことに気付く。
「―――っ!?」
 クラウドは全裸だった。上も下も何も身に着けていない。いつも後ろで括っていた金髪も今は解かれ、首筋に流れていた。
 これは一体どういうことだ。咄嗟に周りを見渡すが服らしきものはどこにもない。混迷気味のクラウドは、それでも何とか現状を把握しようと思考を切り替える。 
 周りを見渡してみるに、どうやらここはセフィロスの自室らしかった。内装は神羅の英雄に相応しい豪奢な作りで調度品もそれなりに揃えられていたが、それでも物が少ないので簡素な空間という印象を受ける。生活感の感じられない一室は、セフィロスの内面が投影されているのかもしれない。

「起きたか」
 不意にかけられた声に、大袈裟に身体が反応した。観察するように部屋を眺めていたクラウドは声の主へと振り向く。そこには当然と言うべきか、部屋の主であるセフィロスがいた。
「……気配を消して近付くな」
「特に意識はしていない。お前の反応が鈍いだけだろう」
 挑発するような言葉にクラウドは咄嗟に怒りが込み上げるが、理性で押し留める。いつもより沸点が低くなっているのはこの身体のせいか、それとも目の前の存在のせいか。ぐっと堪えるように拳を握りしめるが、それよりもこの状況の方が気になっていた。
 何故自分は全裸なのか。ただえさえ十四歳の身体で心許ないというのに、宿敵の前で何も身に着けていないのはそれ以上に頼りなかった。
「……服がない」
 全裸であることを言外に抗議すると、セフィロスは何てこと無いように告げる。
「ああ、風呂に入れてやった。感謝しろ」
「……は?」
「ペットの世話を焼くというのはこういうものかと些か新鮮だったな」
 とても失礼なことを言われた気がするが、途中からのセフィロスの言葉はクラウドの頭に入って来なかった。クラウドの頭は現在進行形で疑問符だらけだ。風呂?入れてやった?誰が?誰を?
「……………………嘘だろ」
 長い沈黙を破って、クラウドはやっとの思いでそれだけ言った。自分が寝ている間に宿敵に風呂に入れられたという事実が信じられない。というより何を持ってセフィロスもそのようなことをしているのだ。肝心の本人を見ても、何処吹く風で捉えどころがない。
「服をくれ」
 とにかく着る物が欲しいことを告げると、セフィロスは目を細めた。そのままクラウドに近付き、ベッドの縁に腰かける。その重みでベッドのスプリングが僅かに軋んだ。
「必要ない。―――分からないか?」
 ゾクリ、と背筋に痺れが走る。まるで生娘を優しくベッドに誘うような声音だった。クラウドは見つめた先のセフィロスの瞳に、魔晄色の奥底に灯る熱を見た気がした。
 一瞬、クラウドはセフィロスに組み敷かれる自分を想像した。そしてすぐにそれを打ち消す。
 ―――――自分は何を想像した?有り得ない想像だ。
 緊張から、コクリと喉が上下した。クラウドはセフィロスの視線から逃れるように彼から目を逸らした。
「ここはあんたの家か?」
 誤魔化すように尋ねた言葉だが、意外にもセフィロスはそれに乗った。クラウドから視線を外し、自らの部屋を見渡す。
「神羅にある私専用の一室だな。他の場所も無いことは無いが、一番ここが都合がいい」
 不穏な気配が鳴りを潜めたことにクラウドは人知れず安堵する。そんなクラウドの様子にセフィロスは気付いていたが、特に指摘したりするようなことはしなかった。
「まさか俺を担ぎ上げたまま来たんじゃ……」
「兵士が驚いていたな。ラザードも煩く尋ねてきたが無視した」
 最悪だ。クラウドは項垂れた。ただでさえこうしてセフィロスの管理下にあるということが問題なのに、無駄に目立ってしまっている。余計な問題がクラウドに押し寄せるのは最早決定事項だった。
「…………」
「そう睨むな」
 クク、と笑うセフィロスは心底楽しそうだ。クラウドはその様子に苦い顔をするが、セフィロスに何を言っても意味がないことは分かっていた。
「あれからどれだけ経ってる?」
「丸一日くらいか……今は夜だ。それにしてもお前はよく眠っていた。暢気なものだ」
「うるさい。大体俺のせいじゃない」
 強制的に眠らせたのはセフィロスだ。クラウドに責められる謂れは無い。
「風呂でも目覚めなかった」
 ピクリとクラウドの耳が動く。
「やめろ」
「それどころか人肌が恋しい年頃なのか、擦り寄って来た」
「嘘を言うな!」
 平然とそんなことを言うセフィロスに、クラウドは噛み付くように声を荒げる。
「嘘ではない」
「ありえない」
「だが事実だ」
「うるさい」
「認めろ」
「うるさいし、もういい。黙っててくれ」
「拗ねるな」
「拗ねてない!さっきから何なんだ一体!あんた本当に―――」
 セフィロスか、という言葉は呑み込まれた。クラウドは視線を彷徨わせた後、言うべき言葉が見つからず口を閉じた。セフィロスは観察するようにそんなクラウドの様子を見つめていた。
 クラウドは奇妙な思いでセフィロスとの会話を振り返る。不穏な気配を漂わせたかと思えば、軽口のような言動を繰り返す。果てにはクラウドを風呂に入れてやったと言う。正直戸惑いを隠せなかった。
 ―――――これは本当にあのセフィロスか?
 思わずそんな疑問がクラウドの胸に広がる。そもそも神羅屋敷の時のセフィロスとの会話から違和感はあった。ここにいるのは間違いなく星に脅威を齎したセフィロスなのだが、どこか―――そう、どこか気安い。
 クラウドの知る未来のセフィロスは、無慈悲で残酷だった。そしてもっと威圧感があり尊大で、こちらの意見などそっちのけだった気がする。セフィロスの視点はどこまでも支配者としてのそれで、クラウドの視点とは決して重なり合わない。それはここにいるセフィロスにも言えることだが、それでもいくらか態度が軟化しているように感じた。酷薄でありながらも、ほんの僅かだが親しみやすさというようなものがある。
 ―――――まるで、憧れた英雄のような。
 クラウドは思わずそんなことを考えてしまった。その可能性は有り得ない。クラウド自身で否定したことであるのに、どこか懐かしさを感じる己の感情に自嘲した。きっとこれも過去の肉体と未来の精神が同時に存在することによる弊害だ。クラウドが十四歳の頃の感情を思い起こすように、セフィロスも英雄時代の感情がその身に残っているのかもしれない。
 クラウドはセフィロスを見つめる。かつてはその背中をただ見ていた。英雄は一般兵のクラウドのことなど気にも留めていなかったが、自分は違った。ああなりたいと強く願い、追い求めた存在だった。憧れであり、尊敬していた。
 目の前の男に英雄の存在を感じ、かつての憧憬が思い起こされるのは何とも皮肉だった。
「気に入らんな」
 不意にセフィロスが言った。
「―――その目だ。誰を見ている?」
 不愉快げに眉根を寄せたセフィロスの冷たい視線がクラウドを射抜いていた。
「過去の幻想に囚われるな。今、お前の目の前にいるのは誰だ?」
 セフィロスの手がクラウドに触れた。そのまま肩口を押され、クラウドの身はあっけなくベッドに沈んだ。
「あ、」
 鮮やかな金髪が無造作に散らばる。同時に直接肌に冷たいシーツの感触を感じ、クラウドは身震いした。
「クラウド、お前の主人は私だ」
 セフィロスがベッドに片膝を乗り上げる。
「あんた、何を……」
 見上げた先から銀髪が檻のようにクラウドの左右に垂れた。外気に触れる肌が粟立つ。
「お前を支配できるのは私だけだ」
 セフィロスは己の左右のグローブを外す。そのままゆっくり手を伸ばすと、クラウドの剥き出しの胸の中心辺りを指でなぞった。直に触れたそこは、傷一つなく美しい。
「我々は絆を喪失した。新たな絆で繋ぐ必要がある」
 かつてセフィロスが貫いたその場所。今となっては未来のことになるのだが、クラウドの身体はまだあの時の痛みも何も知らないと思うと、今すぐに貫いてしまいたくなる。自分という存在を深く刻み込みたい。
「私以外を選ぶな―――クラウド」
 セフィロスの発した言葉は、強くクラウドの脳内に響いた。





「舐めろ」
 上から突き出された左手に、クラウドは眉を顰める。しかしすぐにおずおずと口を開いた。
「ん、ぐ」
 乱暴に咥内に突っ込まれ苦しさに息が漏れた。それでも必死にセフィロスの指に舌を絡ませる。最初は抵抗しようとしたクラウドも、村や大切に思う人々を脅しに使われては従う他なかった。セフィロスなら簡単に脅し通りのことを実行できてしまうだろう。故にクラウドは男の言いなりだった。セフィロスに感じていた微かな親しみの感情は打ち砕かれ、今や目の前の男は加虐に耽る王だった。
「ぅあ、」
 セフィロスの二本の指がクラウドの舌を挟み込む。掻き回すように指先が動き、クラウドの口からは唾液が溢れた。時折まるで愛撫するかのように指が舌の裏筋を擽る。上顎を撫でられたかと思うと、今度は舌を挟まれ引っ張り出される。
 いつの間にか指は三本に増やされ、クラウドは訳の分からぬままセフィロスの指をしゃぶる。どうすることが正解かも分からなかった。
「小さい口だ」
 セフィロスの笑う気配がする。しかしクラウドにはセフィロスの表情を窺っている余裕はなかった。
「―――んん!?」
 唐突にセフィロスは喉奥に指を捻じ込んだ。
「ぅが……っ!はっ、」
 クラウドは耐え切れず噎せて口元から涎を垂らす。そんなクラウドを見つめ、セフィロスは愉悦に表情を染めた。
「そろそろいいか」
 そう言ってセフィロスはクラウドの咥内から指を引き抜いた。苦しげに息を吐くクラウドに追い打ちをかけるように、無慈悲な声が響いた。
「四つん這いになれ」
 クラウドは顔を歪める。
「やめろ。意味がない……こんなこと」
「それは私が決めることだ。どちらにしろお前に拒否権はない」
 それでも中々命令に従おうとしないクラウドに、セフィロスは耳元に唇を寄せた。
「それとも全て失くしたいのか?」
「……っ」
 クラウドはその言葉に息を呑み、苦虫を押し潰したような表情を作る。小さな抵抗も何の意味もなさないことを思い知ると、クラウドは覚悟を決めた。四つん這いになったクラウドを、セフィロスは右手でその項を掴んで上半身を沈め、尻だけ高く掲げた体勢をとらせた。クラウドの顔が屈辱に染まる。
 まだ薄く筋肉の発達していない肢体は、肩まで伸びた金糸の髪と相俟って性別を感じさせない美しさがある。
 セフィロスはクラウドの臀部へと手を伸ばす。その双丘を割り開くと、小さな蕾が顔を出した。場所を確かめるように蕾をやわやわと親指の腹で押してやれば、クラウドの身体が未知の恐怖に強張る。
 そこへクラウド自身の唾液で湿った指先が侵入してきた。
「ぅあっ」
 後孔にセフィロスの左指がじわじわと突き入れられる。まだ一本しか入れられてはいないが、痛みと違和感にクラウドは苦悶の表情を作った。指先が中程まで埋まったところで解すように中を掻き回される。他人に見せることのないそこを、セフィロスの前で為す術もなく晒しているのは堪らない恥辱だった。
 異物感の苦しさに眉を寄せて耐えるが、枕に顔を埋めて声を漏らさないようにするのが、クラウドにとってのせめてもの抵抗だった。
「―――っあ!」
「声を我慢するな」
 乱暴に中に埋められた指を動かされ、思わず上擦った声が漏れ出た。その声に気分を良くしたセフィロスは、クラウドの襟足を掻き上げると、無防備な項に噛み付いた。
「いっ、やめ、」
「なら声を聴かせろ。お前の苦しむ声は心地いい」
「この……、っああ!」
 指を一本から二本に増やされ、圧迫感に苦しさが募る。現在の見た目とは裏腹に、長い時を生きた記憶のあるクラウドは不本意ながらこの行為に対する知識はあった。
 同性同士の性交を目的とした行為。
 なんでも屋を営んでいた頃のクラウドに、こういった下世話な依頼を乞う者たちが一定数存在したことも余計な知識が増えた要因だった。勿論そういった輩には相応の対応をさせてもらったが、クラウドにとって苦い記憶に変わりない。
 ただセフィロスが何故クラウドにこの行為を強いているのかが分からなかった。遠い未来―――二人にとっては過去だが―――で殺し合った因縁の相手のはずだ。ただの嫌がらせなのか、クラウドを徹底的に蹂躙したいのか、クラウドの身体を好き勝手に暴く男の真意は不明だった。
「フ、少しは慣れてきたか?」
「……くっ」
 中を無理やり開かれる感覚に、額に汗が滲む。この頃のクラウドに性的経験はない。村で友人を作ることができなかったクラウドにとって、思春期特有の性的な話題は馴染みがないものであった。だからこそ、セフィロスから与えられる未知の感覚を怖れていた。幼い身体でどこまで抗えるのかが不安だった。
 この行為でせめて快楽を拾うことが無ければいい。ただただ苦しいだけなら耐えられる。これはセフィロスの嗜虐心からくる暴力だと思えばいい。
「苦しそうだな、クラウド」
「ぐ、あ……っ」
 更に三本目の指を後孔に捻じ込まれ、クラウドの目尻に涙が滲む。その姿を満足げに見ると、セフィロスは背後から舌を這わせて溢れる涙を舐め取った。今度は肩口に歯を立てられ、その痛みにクラウドが呻く。
 三本の指の圧迫感に息も絶え絶えに耐えていると、徐にセフィロスはクラウドの萎えた性器に片方の手を伸ばした。
「―――っ!」
 明らかに性感を刺激しようとする手の動きにクラウドは動揺する。
「やめろっ」
 焦ってセフィロスの手を剥がそうとするが、今のクラウドの力ではびくともしない。それどころか緩く扱かれ、その刺激にぶるりと身体が震えた。
「嫌だ、セフィロス!」
 クラウドの言葉を無視してセフィロスはクラウドの性器を弄ぶ。上下に扱き、ぐりぐりと鈴口を押してやる。前を弄られると、幼い身体はすぐに反応を返した。同時に後孔に埋められた三本の指も抜き差しされる。やがてクラウドのペニスは緩やかに勃ち上がり、先走りが滲み始めていた。
「前を弄られるのは好きなようだな」
 笑いを含んだ声に、クラウドの顔が羞恥に染まる。
「ちがっ、っあ」
 裏筋を擦られ先端を親指の腹で押し潰されたことで、クラウドの声に艶が混ざる。前と後ろを同時に蹂躙され、クラウドの身体は快感と違和感の波に晒された。しかし後孔に突き入れられていた異物感は、前の刺激と相俟っていつの間にか外から侵入してきた異物を受け入れるように形を変えていた。
「お前のここは受け入れ始めているようだな」
 セフィロスの指が円を描くように動く。その動きに呼応するようにクラウドの中が収縮する。段々と痛みと苦しさは消え、セフィロスの指を銜え込むことにも慣れ始めたようだった。しかしその事実をクラウドは首を振って否定する。頑ななクラウドの態度を嘲笑うようにセフィロスは言う。
「認めろ。じきにお前の身体は男を受け入れるようになる」
 その言葉に抗議しようとしたクラウドだが、ある一点をセフィロスの指が掠めると、クラウドの腰は驚くほど跳ね、声に甘さが混じった。
「あっ」
「―――ここか」
「……っふぁ!あ、嫌だ、やめろ!」
 幼い身体は快楽に不慣れだった。セフィロスの手によって自分が変えられてしまいそうで、何よりそれが怖ろしかった。
「痛みを与えてやるのもいいが、お前は痛みよりもこちらの方が効果があるようだからな」
「なんの、つもりで……っ!」
「何のつもり、か」
 元々セフィロスはクラウドを支配し、蹂躙したかった。その衝動はクラウドの身体を切り刻み、刃を突き立てるだけでは満足できなかった。満足できないが故に、セフィロスは自分がクラウドとリユニオンを望んでいるのか望んでいないのか分からなくなっていた。
 この唯一無二の存在と対峙することに快感を覚えた。クラウドが自分だけを見つめ、自分のために起こす行動の一つ一つが堪らない満足感を与える。だからこそ一つになれば欠けたものが満たされるかと思ったが、いざそれを想像すると虚しさがあった。
 そして終末の日、セフィロスは己を焦がす確かな願望を知った。
「―――俺は最後に己の望みを知った」
 セフィロスの言葉にクラウドは目を見張った。突然セフィロスの一人称が変わったことにも動揺したが、「望み」という言葉が引っかかった。
「望み……?」
 酷薄に笑う背後の男を見つめる。
 いつだったかセフィロスは「この星を船として宇宙の闇を旅する」という望みを口にしていた。それとは違うのだろうか。
「クラウド」
「っあ、く、」
 セフィロスの長い指が内部を引っ掻く。背後から蹂躙してくる男の唇が、クラウドの耳元へ寄った。
「お前とは、互いに存在したまま一つになる」
「な、に……?」
 クラウドは呆然として背後の男を見た。
「お前を女のように啼かせたら、どんな顔をするのかと想像した」
 セフィロスの吐息がクラウドの耳朶にかかる。クラウドを組み敷く想像は楽しかった。泣き喚く姿も、苦しむ姿も、快楽に咽ぶ姿も、全部きっとセフィロスを満たしてくれる。
 セフィロスの告げる言葉にクラウドは絶句する。セフィロスは誘うように更にクラウドの耳元で囁いた。
「それに今の我々は細胞で繋がっていない。より強い絆が必要だと思わないか?」
 ぐり、と不意に後孔に埋められた指が内部を広げるように動き、クラウドの息が上がった。
「快楽に酔った声は?その声で俺の名を呼ぶ姿を見せてくれ」
「―――んんんっ!」
 後孔を蹂躙し、押し潰すように捻じ込まれた指が再びある一点を掠め、クラウドは声にならない叫びを上げる。そこを刺激されると、訳の分からぬまま力が抜け、内股がビクビクと震える。涙が滲み、歯を食いしばることで何とか耐えていた。
「そんなに気持ちいいのか。お前を泣かせるのもどうやらこちらの方が都合がいいらしい」
 セフィロスの台詞が頭に入らない。指を抜き差しされる度、ある一点の場所に触れられると、身体に電流が走ったように上半身から力が抜けた。
 クラウドのペニスは触られずとも完全に勃ち上がっていた。だらだらと涎を垂らし、セフィロスの与える刺激に悦ぶように震えていた。
「あっ、……は、く」
 クラウドの反応を楽しんでいる様子のセフィロスは、後孔へ刺激を続けるとともに、クラウドのぺニスを弄ぶ。嫌だ嫌だと首を振るクラウドの理性を溶かすように、大きな手で包み、擦り上げ、裏筋を撫で、亀頭を親指で責めてやる。そうすれば幼い身体は仰け反って扇情的に踊った。反らされた背中を味わうように噛めば、気付けば白い肌にはセフィロスがつけたいくつもの歯形が赤く浮かんでいた。
「う、っあ、……いっ、」
 痛みと快楽に呻くクラウドの姿はセフィロスに充足感を生む。背中の歯形からは血が滲んでいたが、それに舌を這わせて舐め取ると、目の前の肢体は素直に反応を示す。クラウドを確かに手中に収めているという感覚があった。
 少年と青年の合間の危うい色気は、ある意味女性の痴態よりも男の情欲を煽るかもしれない。実際セフィロスも自分の予想以上に目の前で快楽に震える少年の姿に煽られていた。もっと苛めてやりたいと思うし、快楽に咽び泣かせて思う存分蹂躙してやりたいとも思う。
「クラウド」
「うぁ、……んんっ」
 立て続けに与えられる刺激に、クラウドの身体は限界が近かった。そもそも性的刺激に不慣れな今の身体に、いきなり許容量を超える快楽を強制的に与えられているのだ。まだギリギリ正気を保っているようなものだった。
 セフィロスの手がクラウドのペニスを上下に扱く。前に与えられる刺激は直接的で、後ろで快楽を拾い始めたこともあり、より強く性感を高められていった。ペニスは解放を求めているのに、なかなか達せないもどかしさにクラウドは切ない息を漏らした。
「い、や…………っあ、いや、だ……。も、むり」
「もう根を上げる気か?」
「―――っああああ!」
 唐突に尻穴に埋められた指が強引に前立腺を押し上げ、クラウドは涙混じりに嬌声を上げた。足の指先が伸び、ヒクヒクと震える太腿。
 ―――――気持ちいい。
 セフィロスの指が刺激する場所が、中を広げられる感覚が、果てしなくクラウドを追い詰めていた。同時にセフィロスの望むとおりに反応を返す自分の身体が許せなかった。
 セフィロスはクラウドのぺニスをゆるゆると扱くが、決定的な刺激は与えてやらない。ひたすらに快感を煮詰めて、終わらない甘い地獄に落とす。
 先端の鈴口をぐりぐりと押してやる度に、クラウドは喘いで性器から涎を垂らし、シーツを汚していた。時折不意をついて後孔の前立腺を指先で穿ってやると、面白いようにクラウドの身体は跳ね、ますますぺニスから涎を溢していた。
「……ん、……くっ、はぁ」
 はぁ、はぁ、と息をするので精一杯なクラウドの様子を見つめ、セフィロスは目を細める。己の支配欲が満たされていくのを感じていた。
「お前は気持ちがいいとそのように啼くのだな」
「はぁ……っ、は、……」
「もっと見せてみろ」
「んぁっ」
 セフィロスは一度後孔から指を引き抜くと、クラウドの身体を今度は仰向けにする。指を引き抜いた時に漏れ出たクラウドの声が甘く響き、セフィロスは笑みを浮かべた。
 正面から見るクラウドは上気した頬に目尻に涙を浮かべ、ぼんやりとセフィロスを見上げていた。枕に散らばる肩口まで伸びた髪は鮮やかで、服を着ていれば少女に見えたかもしれない。発展途上のしなやかな肢体は、中性的な美しさをもたらしている。息をする度に上下する喉がまるで誘っているかのようだった。
「そう物欲しそうにするな」
「……あ、…………な、に……」
 セフィロスの言葉を理解していないのか、クラウドはぼんやりとしたままセフィロスを見返していた。その様子に笑みを漏らすと、セフィロスはクラウドの唇に噛み付いた。
「ん!?……ん、っあ…………はっ、んん」
 舌を捻じ込み、驚いて逃げようとするクラウドの舌を絡め取る。そのまま歯列をなぞり吸い上げれば、クラウドはただただ為すが儘になっていた。
「ちゃんと息をしろ。窒息するぞ」
「ん、っ」
 色々と身体の許容範囲を超えてしまったのだろう、クラウドの反応は大分幼いものとなっていた。理性が半分溶けてしまっているのだともいえる。今の身体に知らず知らずのうちに精神が引っ張られているのかもしれない。
 言われるがまま空気を取り入れようと必死に口を開けようとしては、セフィロスの舌に絡め取られ喘ぐということを繰り返す。それは雛が親鳥に餌をねだるような仕草にも思え、どこか愛らしくもあった。そうしてやっと長い口付けから解放してやれば、クラウドはぐったりとしていた。
 幼さが残る顔立ちを見つめ、セフィロスは自然とクラウドの頬に手を伸ばす。
 ―――――そういえば今は十四歳だったか。
 今更だが、セフィロスはそう認識する。クラウドはこの少し後に、確か軍に入ったはずだ。その頃のセフィロスは英雄と呼ばれていた。そんな自分が単なる一般兵に興味を示すはずもなく、クラウドのことなど当時はほとんど覚えていない。話を聞けば、せいぜいそんなこともあったかという程度だ。それを惜しい、と感じている自分がいることにセフィロスは気付き、自嘲した。
 久しく忘れていた人間らしい感情に、自分で自分が可笑しくなった。どうも過去に戻ってからというもの、複数の自分が混ざり合っているような気がする。それはこの身体の英雄の自分であったり、メテオを落とそうと画策していた頃の自分だったり、二度殺されてから度々復活していた自分だったり―――、最後の記憶の時点の自分だったりだ。クラウドに若干精神的な幼さを感じるように、セフィロス自身も多少過去の時代の影響を受けているということだろう。
 クラウドが今のセフィロスを見て戸惑っているように、セフィロスも今の自分を多少持て余してることは否定できない。ただ、それでも共通しているのは今のセフィロスの頭を占める大半はこの目の前の存在だということだった。
 改めてクラウドを見下ろすと、瞼が閉じかけようとしていた。散々好き勝手に身体を弄ばれて疲弊しているのだろう、未成熟な身体は眠りを欲しているらしかった。
 当然、それを許すセフィロスではない。
「―――いっ、ぁあああ!」
 白い鎖骨にセフィロスが思いっきり噛み付くと、クラウドはその痛みに一気に覚醒した。
「悪い子には仕置きが必要だな」
「な、……セフィ、ロス…………これ、な……え、」
 微睡みの中から完全に覚醒したクラウドは、溶けかけた理性が戻りつつあるのか状況に混乱しているようだった。セフィロスは新たに増えた歯形から血の滲む部分を、抉るように舌先で愛撫する。痛みに引き攣った声を上げるクラウドの姿を見つめ、今度は耳元へ唇を寄せた。
「そのまま混乱していろ。どうせじきに何も分からなくなる」
 そう言ってセフィロスは先程まで解していたクラウドの後孔に、再び左手を突き入れた。
「んぁ!、あああっ」
 クラウドは自分に覆い被さる男を腕で押しやろうとするが、びくともしない。二十代のクラウドでも体格差にかなりの開きがあったのだ。当然、十四歳のクラウドでは抵抗しようが何の意味もなさなかった。
「一度イカせてやる。前を弄らずにイケたら褒めてやろう」
「……!やめろっ、いやだ!」
 表情を青褪めさせたクラウドだが、セフィロスを止めることは叶わない。広げるように後ろを割り引かれ、セフィロスの指が再び前立腺を掠めた。そのまま強引に指を押し進められる。
「ん!……ぁ、く、ああっ」
 再度訪れた甘い責め苦に、クラウドは喘ぐことしかできない。自分の身体が他人に変えられてゆく未知の感覚に恐怖する。いやだ、いやだ、と叫んでみても、セフィロスの指は刺激を止めない。それどころか拒否しながらも泣いて善がるクラウドを愉しそうに見つめていた。
 指が一本から二本に、二本から三本に増やされる。一度解された中は、驚くほどすんなりと三本の指を呑み込んだ。三本の指をバラバラに動かされ、それぞれで前立腺を刺激されると、クラウドは耐え切れず咽び泣いた。
「や、め、……ひっ、ああッ……はぁ、んあぁ!」
 指を後孔に差し入れたまま、セフィロスはクラウドの左胸の突起へと唇を寄せる。勃ち上がってしまっている乳首に舌を這わせて舌先で転がしてやれば、クラウドは力の入らない手で必死にセフィロスを引き剥がそうとする。
 細やかな抵抗を嘲笑うように強く吸い上げると、クラウドの背は弓なりに反った。右胸の突起も片方の手で摘まみ上げる。親指と人差し指で挟んで捻り上げてやると、痛みの中にも快感を拾ってしまうのか、クラウドのペニスは嬉しそうにぼたぼたと自らの腹に雫を垂らした。
「そろそろイケそうだな?クラウド」
「あ、あ、……ひぁ、」
 後孔に埋まったセフィロスの指の動きが様相を変える。比較的緩やかに性感を刺激していたように思えた指は性急な動きに変わり、強引にクラウドの中を蹂躙し始めた。クラウドのペニスは限界まで勃ち上がり、今か今かと解放の時を待っていた。
 自分の中から競り上がってくる何かに、クラウドは訳の分からぬまま耐える。健気に快楽に抗う姿にセフィロスの唇は弧を描いた。
「―――イけ」
 前立腺を強く押し上げると同時に、セフィロスは右胸の突起を抓り上げた。
「……っは、―――あああああああっ!」
 クラウドの性器からは白濁の液体が放たれ、腹を汚した。頭の中で火花が散ったかのような感覚が弾け、身体は射精の余韻にビクビクと震えていた。
「いい子だ、クラウド」
「……あ」
 呆けているクラウドの額に張り付いた前髪を掻き上げてやると、セフィロスはそこへ口付けを落とした。

終末の地:3

 青年は空を見上げている。蒼穹の空は剥がれ落ち、灰色の世界が広がっていた。崩壊が始まれば、それすら無くなって銀河の一部となるだろう。
「みんな俺の前からいなくなって、すぐにいつも一人になった」
 男が青年の前に現れる時も、彼はいつも一人であった。有象無象の人間が存在したりもしたが、その心内は孤独であることを男は誰よりも知っていた。
「だからかな。あんたが俺の前に現れると……安心した」
 いつも男の前で纏っていた青年の固い殻は、今や剥がれ落ちていた。そこには剥き出しの青年の本心があった。
「それが自分でも許せなかった。酷い裏切りだと思った。ただ、それでも―――、」
 青年は懺悔しているようだった。男は青年を見つめる。その瞳が男を映すことを狂おしいほどに欲していた。
「あんたがいる間は、一人じゃないって思えた」
 青年が振り返った。男が初めて見る表情だった。その表情を何と表せばよいのか分からない。ライフストリームと呼応するような互いの瞳が相手だけを映し出していた。
「クラウド」
 男が青年の名を呼んだ途端、青年の目の前から大量のライフストリームが噴き出した。星が青年を迎え入れようとしている。
「さよならだ、セフィロス」
 そう一言だけ残し、青年は高密度に噴き出たライフストリームに歩を進めた。星の最後の灯火だろう。その後、星は終末に向けて朽ちてゆくだけだ。
 これは男の望んだ結末ではなかった。何より星に目の前の存在を奪われることが腹立たしいことこの上ない。それでも男に出来ることは何もなかった。青年に闘う気はなく、星も間もなく息絶える。
 星の輝きは彼を包み込み、その身体を溶かしていくようだった。それを見ていると、やはり男は感じたことのない激しい怒りに囚われた。
 ―――――それは俺のものだ。
 怒りのままに消えゆく青年の元へ歩を進めようとしたが、それを拒否するように今度は男の足元からライフストリームが噴き出した。しかしライフストリームは青年のように男を受け入れようとはしない。それに男は舌打ちした。
「甦ることを許しておいて、今更これか」
 青年の姿はライフストリームに包まれて、消えていく。その姿が完全にライフストリームに溶けた時、男は初めて喪失感を感じた。青年と男の絆は完全に途絶えた。自分が消え去ることより、痛みを伴うそれを、何と呼ぶのか男には分からない。分からないが、激しい感情の波が男を襲っているのだけは確かなことだった。
 間もなく世界の崩壊が始まる。星の終焉に何が起こるかは未知数だった。そして男の傍に青年の姿はもう無い。

「―――一人で見届けろということか。随分性格の悪い真似をする」

 皮肉げに男の口端が上がる。男の呟きは星に向けてか、青年に向けてか。終末の時に一人、男だけが佇んでいた。

 呼吸する度に、まだ未発達の肢体が上下する。性器から放たれた精が腹を汚し、力の入らない身体を無防備に投げ出している姿は、幼いながらも壮絶な色気があった。
 膝裏に手を差し込まれ、クラウドは男を受け入れやすいように限界まで脚を開かせられる。セフィロスは前を寛げると、クラウドの前にそそり立った己自身を取り出した。
「いや、だ……セフィロス、……それは…………やめて、くれ」
「まさか。止めると思っているのか、クラウド?」
 クラウドの後孔にセフィロスのペニスの先端が宛がわれる。触れた箇所が熱を持ち、嫌でもその質量を感じさせられる。
「よく見ていろ」
 膝裏をシーツに押し付けられ、クラウドの後孔にセフィロスの雄が先端で割り開くように、ツプリ、と挿入される。
「あ、だめ、やだ……あ、やっ」
 じわじわと真上から犯される感覚にクラウドは恐怖した。亀頭が押し入ってくる圧迫感に、クラウドは苦しげな息を吐く。慣らしたといっても、指と実際の肉棒では太さも長さも違った。
 ―――――入ってくる。
 目を逸らしたくて堪らないのに、何故か瞳を閉じることができない。セフィロスのぺニスを己の後孔が呑み込んでいくのがはっきりと見える。太く大きなそれは、痛みと苦しさを伴って侵入してくる。内部をゆっくりと犯される感覚が苦しい。
 犯す様を見せつけるように、わざとじっくりと時間をかけた挿入は、クラウドにとって拷問のような時間だった。かつて―――いや未来の宿敵の怒張を受け入れ、思うままに犯されている。セフィロスの肩を押し返しても、びくともしない。それどころかより深く腰を進められ、更なる圧迫感に最早呼吸をするので精一杯だった。
 ゆっくりとだが、確実にそれはクラウドの内部に埋まっていく。セフィロスの視線がクラウドを捉えて離さない。己に犯されるクラウドの姿を目に灼き付けているようだった。
「狭いな」
「はっ、はっ……く、」
 セフィロスのぺニスを銜え込んだクラウドは、荒い息を吐くことしかできない。挿入の苦しさにクラウドの性器はいつの間にか萎えており、瞳からは幾筋もの生理的な涙が流れていた。
 セフィロスは目の前の少年をあやすように口付けると、そのまま首筋をなぞり、肌に吸い付いて赤く色付いた痕を残す。クラウドの呼吸が落ち着いた頃を見計らって、セフィロスは内部に埋めた己自身を緩やかに動かし始めた。
「あ、やめ……っ、うご、くな」
「無理を言う」
 クク、と笑うセフィロスにクラウドは瞳を閉じて違和感に耐える。未だに自分の中にセフィロスのものが埋まっていることが信じられなかった。しかし、それは確かな存在を主張してクラウドの内部を犯していた。
 ゆるゆるとクラウドの内部で自身を抜き差しし始めたセフィロスは、萎えてしまっているクラウドのペニスにも手を伸ばす。慰めるようにそれを扱くと、クラウドの内部が収縮し、中のセフィロスを締め付けた。
「―――、そう慌てるな」
「っは、んんんんっ!」
 勝手に中を締め付けたことを叱るように、セフィロスがクラウドの先端に爪を立てる。それを歯を食いしばって耐えるクラウドの姿にセフィロスは笑みを零した。
 クラウドの内部がセフィロスの形に馴染み始めた頃、段々と抽挿を速めるように腰を動かす。最初は内部の感触を楽しむように緩やかだった動きが、確かな意思を持ってクラウドを責め立てていく。
「あ、あ、っく、ぁあ」
 セフィロスの律動に合せるように、クラウドの唇から息が漏れ出る。苦しさに漏れ出ていた息は、いつしかそこに甘い響きが混じるようになっていた。クラウドの身体はセフィロスの与える刺激に確かに快感を感じ始めている。セフィロスもまた心地良く締め付ける媚肉に快感を得ていた。
「ふっ、あ、……んッ、あぁ、は、」
 セフィロスの動きに、素直に反応を返す身体がいじらしい。苦しさだけでなく、快楽を見出して揺れるクラウドの身体は艶やかだった。
 そろそろいいか、とセフィロスは内心思う。大分クラウドの中は自分に馴染み、男根に責められることを悦び始めている。クラウドの身体のことなど気にかけずに思うまま蹂躙しても良いのだが、未成熟な身体に快楽を教え込み、そのことに必死に抗って耐えるクラウドを見るのも好ましかった。
 暫くクラウドの痴態を観察するように眺めた後、頃合いを見計らってセフィロスはクラウドの前立腺を思い切り穿った。
「―――あ!?んぁ、あああ!」
 唐突な責めにクラウドの背は仰け反り、大きく嬌声を上げた。
「あ、な、やだ、いや、あっ、やめろ!」
 思わず逃げようとする腰を掴み、もう一度前立腺を穿ってやる。
「―――あ、んんんんんっ」
 ビクビクと目の前の身体が震え、性器が反り返りながら涎を溢した。快感に打ち震え、足の指先が伸びる。クラウドは何に縋って耐えればいいのか分からずに、結果、あろうことか目の前で自分を犯す男の背中に腕を回して縋りついた。
「クッ、随分と可愛いことをする」
「うっ、は、あぁ」
 セフィロスの言葉など耳に入っていないのか、焦点の定まらぬ瞳から涙が零れ落ちる。荒い息を吐き快感に咽び泣く少年の姿は、壮絶に艶麗だった。
 自分に意識を引き戻すように、セフィロスはクラウドの項に手を回し引き寄せて唇を奪う。縋った手はそのままに、クラウドは与えられる口付けを受け入れた。最早何が自分を追い詰めているのかも理解できていないようだった。
「ああっ、ふ、はぁ」
 ぐちゅぐちゅと後孔を掻き回されながら、咥内をセフィロスの舌が蹂躙する。狙ったように前立腺を押し上げられれば、クラウドは切なげに啼いた。
 ギリギリまで抜かれ、そうかと思えば今度は最奥まで穿たれる。速まる律動にクラウドはセフィロスの背中に必死にしがみついて耐えた。激しい抽挿の中、思わず鍛えられた背中に爪を立ててしまえば、それを咎めるようにセフィロスはクラウドの肌に噛み付いた。それすら感じてしまい、クラウドの性器からは溢れ出た精液がとめどなく流れる。
 時折、胸元の飾りを苛めるように引っ掻かれては、その刺激に打ち震える。どこもかしこも感じてしまうようで、クラウドは自分の身体なのに自分ではないような感覚に陥った。
 後孔を犯されながらペニスを弄られ、射精感が込み上げるが、セフィロスは決してクラウドが達そうとするのを許してはくれなかった。いつもすんでのところでセフィロスの手によって塞き止められ、込み上げた欲求は内側に戻ってしまう。しかし後孔は犯され続け、セフィロスの手は常に他の性感をも刺激した。それでも決してクラウドが達することは許さない。それを幾度か繰り返され、その苦しさにクラウドは泣いて縋ることしかできなくなっていた。
「も、許し……許して、くれ」
 クラウドの身体はもう限界だった。組み敷かれ、碌に抵抗できぬまま奪われ尽くす幼い肢体は、最早ただセフィロスを満足させるためだけにあった。達したくても、それをセフィロスが許さない。クラウドにはどうすることもできず、己の矜持を投げ捨て、目の前の男に乞うことしかできなかった。
 クラウドの言葉に、セフィロスの唇は蠱惑的に笑みを彩った。
「―――ああ、クラウド。そうやってお前の懇願する姿が見たかった」
 セフィロスは無慈悲に責め立てるを止め、愛しげにクラウドの頬を撫でる。クラウドは決して弱くない。自分を一度ならず殺した相手なのだから当たり前だ。その存在がセフィロスに支配され、自ら屈し懇願する姿は甘美な陶酔感を齎す。
「名を呼べ」
 肩口まで伸びた金糸の髪を一房手に取って、口付ける。他の誰がセフィロスの名を呼ぼうと何の感情も湧かないが、クラウドだけは違う。その瞳が、その唇が、己の存在を象る度、不思議な充足感が内側を焦がす。
「セフィ、ロス……セフィロス」
 助けを求めるがごとく名を呼ぶ少年に、愛しさが募る。甘やかしてやりたいような、それでいて踏みにじって壊してしまいたいような感覚に陥った。
「クラウド。お前が俺に許しを乞うというのなら、」
 クラウドは濡れた瞳でセフィロスを見た。まだ魔晄に染まっていない瞳の奥には、犯されながらも過去に打ち捨てた憧憬の念のようなものが見えた気がした。
「―――何度でも許そう」
 そう言って、セフィロスは再びクラウドの最奥を穿った。唐突な快感の波に、クラウドは声にならない叫びを上げる。クラウドが射精するのを決して許さなかったセフィロスだが、今度は明確に解放を促すように激しく責め立てる。
「あぁ、っん、はぁ、あっ、ふぁっ」
 クラウドの後孔からはぐちゅぐちゅと卑猥な音が立ち、セフィロスの性器を限界まで開いて頬張る。まるで銜え込む肉棒を離したくない、というようにクラウドの内部が収縮する。セフィロスが腰を動かす度に、クラウドの身体は主人の意に沿うがごとく従順に動きを合わせた。
 ―――――浅い所から最奥まで穿たれるのが気持ちいい。
 ぐりぐりと腰を押し付けられ、奥の奥まで蹂躙されることが、とてつもない快感だった。セフィロスのもので内部を掻き回される感覚は、クラウドがこれまで感じた何よりも気持ちよかった。
 ―――――知らない。こんなの、知らない。
 頭の中が真っ白になる。理性など最早溶けてしまった。激しく抱かれながら、クラウドはせがむようにセフィロスにしがみつく。
「クラウド、」
「あっ、セフィロス……!セフィロス、」
 クラウドが名を呼べば、内部に埋まった怒張が更に硬く膨れ上がった。セフィロスにとって、クラウドの内部は驚くほど気持ちが良かった。未だかつて、このような肉の交わりに過ぎた快感を得た覚えはなかったが、クラウドとの交わりは今までとは全く違った快感だった。よくも飽きもせず肉欲に耽るものだと、色事に熱を上げる輩を嘲笑していた頃が懐かしい。
 ―――――繋がっている。
 確かに今、自分たちは強固な絆で繋がれている。それは離れてしまえば不確かで脆いものだが、こうして一つに溶け合っている間は何よりも強く繋がっていると感じることが出来る。
 セフィロスが欲していた、目の前の存在との確かな繋がりがそこにはあった。
「もっと奥までくれてやる」
「あっ!?」
 セフィロスのペニスがクラウドの内部の奥の更に奥、通常では到達しえない場所を穿つ。
「あ!、っは、そこ、……だめ!、はいらなっ、だめ、」
 だめ、だめ、と首を振るクラウドをセフィロスは宥めるように口付ける。口調が幼くなってしまっているクラウドはどこか愛らしい。奥をこじ開けるように穿つ度、クラウドの身体は啼いて悦んだ。
「ああッ、……ひ、っあ!……は、」
「ふ、入っているだろう?素直に感じていろ」
 有り得ない快感を得て怖がるクラウドを優しく説き伏せると、激しく唇を合わせながらセフィロスの腰の律動がどんどん増してゆく。互いの荒い息が混ざり合い、溶け合う。腰を激しく打ち付ける音が空間に響いていた。クラウドもいつしか自分からセフィロスに合わせるように腰を振ってしまっていた。
 そしてクラウドの一番感じるところを狙って穿たれた瞬間、仰け反りながらクラウドの性器からは勢いよく精が放たれた。
「―――ぅあ、ああああっ」
「く、」
 クラウドが果てたと同時に内部がセフィロスを締め付け、少し遅れてセフィロスもクラウドの中に精を放つ。クラウドの性器は射精した後も、びゅるびゅると断続的に白濁の液を零していた。
 セフィロスがクラウドの後孔から己自身を引き抜くと、そこは卑猥な音を立てながら今しがたセフィロスが放った精液が溢れ出て来た。確かめるようにその蕾を左右に割り開けば、泡立った精液がどんどん流れ出る。それを見ていると、自然と笑みが零れた。
 セフィロスはクラウドを見るが、その身体はぴくりとも動かなかった。どうやら失神してしまったらしい。
「我ながら酷いものだな、これは」
 改めて見たクラウドの状態は酷いものだった。白い肌は赤い鬱血痕に溢れ、歯形が至る所に残ってしまっている。クラウドの目元は幾筋もの涙の痕が見える。汗で張り付いた髪の毛を掻き上げてやり、そっと頬に手を寄せる。
 穏やかに眠っているクラウドの姿を見るのは新鮮だった。己のしたことを思うと、穏やかとは言いづらいかもしれないが。
「これからどうしてやろうか、クラウド」
 返事がないのを分かっていながら、機嫌良くそんなことを問いかける。
 この少年は自分のものだ。かつて必死に自分を追いかけ、苦しみ、それでも自分を打ち倒した男。そう、ここにいるのは精神的には確かにそのクラウドなのだが、まだ足りないものがある。せめて自分と同じ高みに登ってもらわねば。
 それでこそ、自分はクラウドを真に手にしたといえるのだから。
「俺自身の手で育てるというのも一興か」
 かつて英雄と呼ばれた自分。捨てたはずの過去が現在となっているのは何と滑稽なことか。だが、暫くは英雄を演じてやろう。事を成すのに今の地位が何かと都合がいいのは事実だった。何せ成さねばならないことが多すぎる。
 クラウドの身体には自分の細胞を植え付ける。何せ細胞の繋がりの無い今は、セフィロスとクラウドの関係は不安定な要素が多い。
 五年に及ぶ人体実験の結果、以前のクラウドは適性の無さから魔晄中毒に陥ってしまった。しかし自我を取り戻し、幾度の闘いを乗り越えた記憶のある今のクラウドならば、耐えられる可能性はある。そもそも五年も宝条に任せる気などない。全てセフィロスの管理下で行うつもりだ。
 それに、とセフィロスは思う。例え反応を返さぬ人形となったとしても傍に置いておくことに変わりはない。かつてのクラウドがそうであったように、必ず目の前の存在はいつか自我を取り戻すだろうと確信しているからだ。
「そして―――……思い出してもらわないとな」
 星が命を終えようとしていた頃、この少年はセフィロスを置いていった。セフィロスはわざわざ甦ってクラウドを探して会いに来てやったというのに、セフィロスを一人残したまま星に還ったのだ。全く許し難い。そのお陰で星の終末を一人で見物するという、退屈で仕方ない役目を負うことになった。こうして過去に戻されたことで、その退屈な役目からは解放されたのだが。それでも思い出してもらわねば、割に合わないというものだ。
「全く、思い通りにならん存在だな」
 そっと溜息を吐く。しかしクラウドを見つめるセフィロスの瞳はどこまでも穏やかだった。
 兵士としての訓練も経験していない今のクラウドには、自ら実戦経験を叩きこんでやろう。これからのことを想像し、セフィロスは笑う。

「―――楽しみだ」
 その声は心底楽しそうに、虚空に響いた。傍らに眠る少年は、何も知らずに穏やかな寝息を立てるだけだった。