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等間隔に置かれた観葉植物の向こう側で、地平線に漂う夕日が本日の役目を終えようとしている。 部屋がオレンジ色だったのは、最後の最後まで主張が激しい夕日のせいだったのか。 ザザン…と波の音が鼓膜を震わせる。 気が付けばあの耳障りなノイズは消えていた。 「………あぁ、そうだった。俺…シルクと…」 デスマーチが終われば、俺達には数日の自由時間が与えられる。 編集は相変わらず生活の一部となっている為、パソコンとは切っても切り離せない仲となっているが…。 「ねぇマサイ、1泊2日でさ。俺とグランピング…行かねぇ?」 さて。この貴重な休日をどの様に充実させようか。そう考えていた矢先、手にしていたスマホの画面を此方に見せて微笑むシルクの提案を、俺は断る理由も無く即座に飲んだ。 「あぁでも…奥さん良いの?」 「あー…うん、なんか家族泊まりにくるみたいだから」 それなら尚更外出は控えた方が良いんじゃないかと口にしようとしたが、一瞬だけ影が掛かった表情に慌てて開きかけた口を紡ぐ。 大好きなシルクからのお誘い。しかも多分だが俺だけにしか声を掛けていない。 またと無いチャンスを手放したくないという少々自分勝手な気持ちが、相手方の心配を優に勝った。 「分かった」と一言返せば、次の行動に移るのは本当に早かった。 - 最近リニューアルされたという海辺のグランピング施設は、自分達で設営し準備をするキャンプとはだいぶ掛け離れたもので、お洒落な建物とテラスが特徴的な…まるで日本から遙か遠くに離れた南の国に訪れたのではという感覚に陥った。 予約の際にプランを伝えておけば、食材も道具も用意してくれる。なんて素晴らしいのだろう。 普通のキャンプならば、体力や時間を無駄に消費してしまう部分を、このグランピングでは全て娯楽に充てられる。 バーベキューをしたり海で遊んだり、一通り楽しんでもまだまだ時間が有り余っているという余裕が。そしてシルクと一緒に明日まで居られるのだという多幸感が本当に心地好かった。 夏は日が落ちるのがゆっくりだ。 後少しで時計の短針が4を指そうとしているが、何処までも広がる空は真っ青なままで。海から上がりシャワーを浴び…清潔なベッドに横たわりながら、薄く散らばった雲が形を変えていくのをボーッと眺め続ける。 来て良かった。 シルクがシャワーを浴びてるのを良い事に、実際に言葉にしてポロリと零す。 誰にも届かない言葉は空に溶け、シャワーの音が止まった合図で瞼を閉じた。 ガチャリ。と脱衣所の扉が開く音に、やけに出てくるのが早いなとほわほわしている頭で考えているとー。 「マサイ…」 甘ったるい。聞いた事も無い艶やかなシルクの声に、腰辺りにぞわりと不思議な何かが絡み付く。 思わず震えた肩に、後方から聞こえた微かな笑い声がその感覚に上乗せされた。 2人用に特化していないベッドがもう1人分の体重で軋み、目を開けるか否か迷っている間に温かな手のひらが俺の肌を滑った。 「っ!?」 これには堪らず瞼を持ち上げ、時間を掛けゆっくりと後方のシルクへと体ごと向ける。 「何寝たフリしてんだよ」 「…えっ、シルク…服は?」 美容院で短く整えられた髪の先から水滴が1つ。ポタリと落ちて俺の服に吸い込まれた。 夏になると毎年お目にかかれる、白と黒の境界線がハッキリとした肌。 水分を十分に含んだ白の表面に、落ちた水滴みたく吸い込まれていきそうだ。 「…服?」 「えっ、そっ、そう…服…っ。持ってかなかった?てか、きちんと区分けされてても周り窓ガラスなんだからさ…一応着なきゃヤベェだろ…」 なんて、衣服を身に付けなくてはならない真っ当な理由を述べるが、本当にヤバイのは俺自身である。 何度もシルクの裸は目にしてきたが、どうしてか…この雰囲気は流石に良くないって…。 伝えてはいないけれど、俺はシルクの事が友人としても相方としても…そして恋愛対象としても好きなのだから…。 心の準備が出来ていない、不意打ちの全裸は心臓に…いや、下半身に物凄く悪い。 「ふは、大丈夫だって…。柵もあるし、わざわざ浜辺側に回らなければ見えないだろ」 「いや、そういう問題じゃ…」 視線を別の所に移さなければと必死に葛藤するが、欲望に忠実な瞳は何度も何度も元の場所に戻ってきてしまう。 脚の付け根から真っ白な内ももに視線を勝手に固定してしまい、内心パニックに陥る。 引き締まっているのに大福の皮みたくもっちりとしたそこを凝視していると、少し上から未だ横たわっている俺を見下ろしていたシルクが、ククッと微笑したのに羞恥心が込み上げた。 「マサイ…見過ぎ…」 「ーーッ!!ごっ、ごめん…っ」 って、何で俺が謝っているんだ…? 意図的に脚を開いて見せ付けているのはシルクの方なのに…。 というか…コイツは一体何がしたいんだ…。 自分の不規則な呼吸音が耳に付く。ちょっと静かにしてくれよ…頼むから…。 雫がもう一滴ポタリと滴り落ちる。 細められた目を直視してはならない。 見たら最後…俺は…。 「お、やっと目が合った」 俺の体はどうして主の言う事を聞いてくれないのだろうか。 バチリと噛み合う視線に喉を鳴らし、宿る炎の揺らめきに血液の循環が速まる。 色っぽい。今のシルクを一言で表すのなら、それが一番当て嵌っているだろう。 近付く顔に頭を下げる事すら出来ず、昔から堪能したいとばかり願っていた分厚い唇が、自身の薄い唇に重ね合わされた。 口紅を押し当てただけでは感じられなかった柔らかさが全体を覆い、クッと力を一点に掛けられて唇の皮膚が沈む。 シルクと…キスをしている…。 息を止めて顔の角度を少しだけ傾けると、シルクもそれに合わせてもう一度…今度は若干荒々しさを感じる口付けが開始された。 湿った舌が上唇を舐り、口端まで辿り着くと反対側に向かって再び戻る。 行き止まりで一息ついてから、何方からともなくそっと離れると、肌を桃色に染めたシルクが深い溜め息を吐いた。 「マサイ……お願い、…俺の事…抱いてくんねぇ…?」 「……っは、……抱、く?」 垂れ下がった前髪を掻き上げる左手の薬指に光る指輪が、その「抱く」という単語を尚の事不純な意味合いにさせた。 「何…言って…」 「…頼む、……マサイにしか、お願い出来ねぇんだ…」 「でっ、でも…っ。お前…結婚して…っ」 「マサイは…俺の事抱きたくねぇの…?」 俺の事そういう目で見てただろ? ワントーン低くなる声色が心臓をギュッと鷲掴み、驚きのあまり胸に刺す様な痛みが走った。 今この場にメンバーが居てくれたら「そんな筈無いだろ?」と笑って誤魔化せたのに、2人だけの空間が諸処の反応を大袈裟にさせてしまい、もう何を返したとて意味が無いと悟る。 「………何時から気付いてた?」 否定する訳でもなく素直に認めた俺を、ぶっ込んできた張本人のシルクは目をまん丸くしてジッと見つめ、腕を緩く組んでから顎に人差し指を添えた。 「悪ぃ…鎌かけるとかそういうんじゃ無かったんだけど…。今、俺を見る目で確信したっていうか…」 「…そっか。俺…分かりやすいもんな」 先程の会話が途切れない楽しい空気から一変、泣きたくなるくらい気まずい空気が流れる。 シルクは一体どういうつもりでキスをして…抱いて欲しいとお願いしてきたのだろうか。 尋ねたくとも自分にそんな勇気は無い。 「なぁ…俺の事…好きなんだろ?」 もう理解しているくせに、お前の口からきちんと「好き」と言ってくれとばかりに、シルクは此方の心情等お構い無しに続ける。 それを聞いた所でなんの意味があるんだ。 想いをしっかり伝えたとて、シルクが俺を選んでくれるだなんて夢物語は用意されていないのだから…。 俺はシルクの体だけが欲しいんじゃない…心が、というより全てが欲しい…。叶わないならば、これ以上この話を続けていたってなんのメリットも生まれない。 「もう良いだろ…?俺がそういう目で見てたのは認める。だけど…だからといってシルクとどうこうなりたい訳じゃない。俺はお前と、今のままの関係でいたいんだ…」 非日常に気分が高揚して少しだけ道を踏み外しそうになっただけ。 コイツは興味を持った物事は何に対しても取り敢えず行動あるのみ。って質だから、きっと「そういう事」にしたってそこまで深くは考えていないのだろう。 小さく笑ってベッドから起き上がる。 眼球は相変わらず挙動不審なままだが、体は思ったよりもすんなりと動いてくれて、シルクから一旦距離を置く事が出来た……筈だったのに。 「俺は…本気なのに…」 今まで触れていたシーツの感触を再び背中に感じる。 一瞬だけぐわりと脳が揺れ視界がぼやけたが、すぐに俺の真上に居るシルクが映し出され、状況を理解するのに数秒を要した。 あ…俺…押し倒されて…。 「本気」というシルクに「まさか」と引き攣った笑顔を向けたが、目の前の顔は嘘偽りも無く何処までも本気だった。 「マサイ…お願いだから…。今は既婚者とか関係無く抱いてほしい…。なぁ…見ろよ…っ。俺…ココ、さ。頑張って綺麗にしたんだぜ…?」 馬乗りになっていたシルクがもぞりと動き、双丘を開いて隠されていた欲の穴…つまりはアナルを指で拡げ、そして大胆にも此方に見せ付けてきたのだ。 「ーーーッ!!」 くすんだ桃色の縁がくぱっと口を開け、中から粘性のある液体を零しながら厭らしく俺を誘う。 想像以上に官能的な膨らみに、堪らず喉を大きく鳴らし生唾を飲み込むと、顔を真っ赤にさせていたシルクが満足気に微笑んだ。 「ちょ…、待っ、て…っ。何で…此処っ。こんなになって……、っえ?」 とても未開拓だとは思えぬ卑猥なアナルに「もしかして…」と呟いたが、それに被せる様にクツクツと笑い声がそれ以降の言葉を抑え込む。 「違ぇよ…マサイの為に頑張って解したんだって…」 「は、え…?俺の、為…に?」 という事は…このグランピングは、全て俺に抱かれる為に計画された…っていう認識でOK? いやいや、益々意味が分からない。混乱する…。 何故シルクはそこまでして俺に抱かれたがっているんだ…? 俺の事が好き…?いやそんな訳…。 これまでそんな素振りなんて見せなかったし、なんなら結婚だってしたじゃないか…。 悶々と自分なりの解釈をグルグル巡らせていると、急に下半身の風通しが良くなり恐る恐る目線を下に向けた。 「な…っ!?シルク何して…っ!」 慣れた手付きでズボンと下着を纏めて下ろしているシルクを咄嗟に手を伸ばし静止しようとしたが、指先が届く前に剥ぎ取られたその2セットが床にパサリと落ちる方が残念ながら少しばかり早かった。 そして尚更青ざめてしまう光景に、俺は絶望し力の抜けた腕をシーツの上に落とす。 「あ、っは…。何だよ…しっかり勃ってんじゃん」 成人向けの漫画等でよく使われる「生理現象だから仕方ないだろ!!」という台詞を吐こうと、半開きだった口を開いて空気を吸った。 だが、男の尻穴を見て生理現象だなんて。惨めったらしいにも程がある。 あまりにも情けなくて、行きどころを失った腕を今度は自らの目元に持っていき全体を覆う。 「マサイ…お前は何も気にしなくて良いから…。俺に身を委ねてくれれば良いからさ…」 勃起したペニスと引けを取らない温かな手が陰茎をそっと撫れば、ずっと思い描いていたシチュエーションの内の1つに海綿体がより膨張した。 「…跳ね除けないって事は、同意…って意味だよな?」 「…もう、好きにしてくれ…」 据え膳食わぬは男の恥。シルクとの今度の関係性は一度置いておいて、今はもう流されてしまおう…。 くちゅりと解れたアナルに宛てがわれた先端を目にし、全てを諦めた俺はそっと瞼を閉じた。 - 「流石にだいぶ日が暮れてきたな…」 メインの窓を全て開け放ち、テラスのカウチに腰掛けるシルクがポツリと呟く。 行為が終わってから俺は疲れ果ててすぐに寝てしまった。 その間シルクはどの様な感情を抱いたまま過ごしていたのだろうか。 白い肌が夕焼けで朱色に染まっており、先程繋がっていた時と似た色合いに、俺の頬も負けないくらい色付いているに違いない。 「シルク……その、体は…大丈夫?」 「んぁ?…あー、うん。大丈夫。ほら…俺タフだし」 「でも…」 「マサイ」 遮られたと思えば、海を眺めていたシルクがゆったりと顔を此方に向け、これまた逆光で見辛いがとても柔らかい笑顔を浮かべている…そんな気がした。 「俺…また海で遊びたくなっちまった。一緒に行こうぜ?」 しかし口調は普段と何ら変わりない。 既婚者なのに…俺とセックスしたくせに…。罪悪感等一切感じられない雰囲気が全身の毛穴を粟立たせる。 シーツを握り締める手に力が勝手に込められ、少し経ってからフッと指先の力を抜いた。 「海……行こうか」 シルクを理解してあげたい。けれどもどう聞き出せば良いのかは未だに分からない。 ならばシルクの言い分を出来るだけ聞き入れて、アイツから話し出すまで待つしか選択肢が無かった。 「よっしゃ、暗くなってきちまったから泳げねぇだろうけど…海って足浸けてるだけでも楽しいよな」 戻ったら飯食って、花火も用意されてたから夜になったら遊ぼうぜ? 妖艶な空気は既にシルクの周りから消え去っていて、この後のスケジュールを楽しげに立てている様子はまるで子供みたいだ。 カウチから立ち上がり、服を着る為に一度部屋の中に戻って来るとばかり思っていたが、全裸の状態で浜辺に向かうシルクにぶわりと焦りを覚えた。 「えっ…、待ってシルク…っ!服…着ねぇと…」 「そんなの要らねぇよ。見てみろって、日も落ちて外は暗いし。それに…たまにははっちゃけたくね?」 やっぱり…今日のシルクは何かが変だ。 芸能人までとは行かないが、俺達だってそれなりに顔が知れ渡っている。 もし仮に。少し離れた所に点々とあるグランピング施設に泊まりに来ている人が、俺達が泊まっているこの施設の浜辺にまで来たら…。更にその人が俺たちを認知していたら…。確実に炎上は免れないだろう。 暗いのは確かだが、夜でも安全に過ごせる様に所々に設置してあるライトが常に灯っている。 人が来たら一巻の終わりだ。 「シルク…っ、でも……、っ。あぁ…、行っちゃった…」 肩にブランケットを巻き付けてはいるが下半身は丸見えで、隠す場所が違うだろと言いに行く為、床に落ちていた下着を急いで履いて俺自身も浜辺へと駆け足で向かった。 「おい!シルクっ!せめて下だけは隠せって!」 海風で靡くブランケットは与えられた役目を一切果たしておらず、天女が身に纏っている羽衣の様に感じられた。 気が付けば夕日はその姿を地平線の向こう側にすっぽりと隠し、三日月よりもかなり細い月が夜空に浮かんでいる。 「マサイ!夜の海ってやっぱめちゃくちゃ綺麗だよな!」 海水に足を浸けて此方に笑い掛けるシルクは、天から舞い降りて来た神の使いなのではないかと錯覚する。 これが惚れた弱味ってやつだ。 水面に漂う星を蹴散らす様に燥ぐシルクに、俺はもうこれ以上咎める事を止めた。 ぐるりと辺りを見渡すと、一定距離離れた所にある施設の建物には人工的な光が揺らめいており、少し静かにしようか。という意図を込めて自由だったシルクの手を掴む。 「…え、マサイ?」 「シルク、あまり騒ぎ過ぎると向こうの人来ちゃうよ?」 「……あー、そういう事。なんだ。俺と恋人繋ぎしながら浜辺を駆け巡りたいのかと思ったわ」 少女漫画にありがちなワンシーンを俺とシルクの2人バージョンで想像すると、あまりにもシュール過ぎる光景が脳裏に浮かび、思わずブハッ!と噴き出してしまった。 「いやいやいや、マジで無い…ウケる…っ。いくら俺がシルクの事大好きだからってそれはー」 「あ、やっと好きだって言ってくれたな。しかもワンランク上のやつ…」 「え……?………あ、っ」 あんな下品な行為をしておいて何を今更…と感じたが、恋愛感情を知られてから初めて本人の前で口にする「大好き」は、心がむず痒いなんてもんじゃない。 もう数え切れない程シルクが絡んだ事柄に関しては敗北してきたが、今回は悔しさが凄まじく強めに握っていた手を解放した。 だが完全に離れる前に、ニヤニヤと悪戯っ子みたく笑うシルクに掴み返され、たった今コイツが口にした「恋人繋ぎ」に変わる。 「っあ……」 俺よりも丸みを帯びた指先が指間腔を擽り、ジンジンと柔い痺れを伴った熱が周りの皮膚に広がった。 「……っは、俺達もっとスゲェ事してたのに、なんか恥ずいな…」 「それ……もう蒸し返すな、って…」 「…ヤバ、マサイ顔真っ赤じゃん」 暗くなってきたというのに、それでも誤魔化しきれないくらい赤面してしまった俺を見て、シルクも同じく頬をほんのりと赤らめた。 結んでいた視線を一方的に外し、波が押し寄せ引いていくタイミングでもう一度戻せば、シルクの瞳は俺を既に捉えておらず、ぼんやりと浮かぶ整った横顔に落ち着いた筈の欲がぶり返す。 「シルク…どうして俺を誘ってくれたの…?」 「……えっ?」 「だから…。…別に俺じゃなくてもさ……いや、凄く嬉しかったのは間違いねぇんだけど、今まで他のメンバーとも…撮影なら兎も角、プライベートでこんなん無かったじゃん………、っ、あー…もう、言葉出てこねぇ…っ」 空気を読まず出てきた欲を誤魔化す為に問い掛けたつもりが、一言一言発するに連れて頭の中が真っ白になっていき、あからさまに不自然な俺の様子にシルクは口角だけ数ミリ上げた。 「知りてぇ?」 「…あっ、いやその…っ、…教えてくれんの…?」 「別にずっと隠そうだなんて思ってねぇよ」 てっきりシルクは語りたくないと思っていただけに、予想外の返答に挙動不審になっているとー。 「っ!?あ…っ!」 繋いでいない方のシルクの手が下着越しのペニスを鷲掴み、静かにしろと指摘していた側にも関わらずつい声を上げてしまった。 「男ってさ…ココである程度の感情が分かっちまうんだから、ほんと滑稽だよなぁ…」 緩く勃起していたペニスを指で挟まれ数回擦られると、あっという間に戦闘態勢が整う。 いや、こんな場所で勃起させられても正直困るのだが…。 「すげぇ…もう下着ぐっしょり濡れてきた…。…このカウパーにさ、俺の腹ん中の体液も含まれてると思うと…マジで興奮すんな…?」 「っ!!お前って奴は…っ。てか俺を誘った理由、教えてくれんじゃ無かったのかよっ」 また都合良く流される前に。俺は強気な態度を見せながらシルクとの距離を詰める。 15センチも低いが力の差は歴然だと感じているのか、扱くのを止めようとはしないシルクの余裕気な表情に、男としての威厳をぶつけてやりたい衝動に駆られた。 勿体ぶるなら言わせるまで…。一度火が着いた対抗心は俺の中に常駐していた人としてのモラルを瞬時に消し去り、先程まで堪能していた尻を遠慮なく鷲掴んだ。 「ん…っ、…なぁに?またシたくなっちまった?」 その余裕な表情をグズグズにしてやりたい…。 片手で双丘を掻き分け閉じきっていないアナルに中指を埋め込むと、胎内に残っていた精液がとろりと纏わり付く。 「…掻き出してなかったの?」 「んー…?んぁ、あぁ…。お前が奥にたくさん出したから…、下りてこなかった分だろ…」 シルクの側頭部に鼻先を擦り付け、潮の香りと共にスン…と浅く吸い込む。 鼻腔に広がり定着した夏特有の香りが、俺の獣欲を縛り付けていた枷を意図も簡単に外した。 指を一旦抜いて前側から手を差し込めば、愛撫し易い様に脚を開いてくれ、ふんわりとした縁をちゅぷちゅぷと指の腹で撫でてから再度指を挿入した。 「あ…ぁぁッ、あー…、此方側の方が…、っあ、手前っ、当たって気持ち…ぃ」 反応がとても良かった前立腺を、わざと水音を響かせながら責め立てる。 胡桃大の凝りは悦んでいるのかピクピクと震えていて、器用に摘んで弾くと母指球と小指球の間に乗せられた陰嚢がキュゥゥと引き締まった。 入り口付近のしっかりとした襞をグルリと撫で、前立腺を越えて限界まで指を収めると、そこはふわふわと程好い弾力を感じられてとても温かい。 「凄…、尻の中ってこんなになってんだ…」 「っ…は、さっきはすぐに挿れちまったもんな…ぁ。かく言う俺もっ、…んっ、そんな奥まで触れた事、ねぇ…けどっ」 シルク自身も触れた事の無い場所を俺の指が…なんて一瞬だけ感動に包まれたが、そういえばつい2時間程前までは更に奥にまでペニスを収めていたのだと思い出せば、順序を飛ばし過ぎたかと若干の後悔が生まれた。 分厚めの雲が細い月と一番星の姿を隠す。 自然な明かりに慣れてしまった瞳は人工的な灯りは受け付けず、足首まで浸った海水を軽く蹴ってピタリとシルクの体に肌を付けた。 表情の細部まで確認出来ない…。 身長差の関係上、体を触れ合わせた所で目視し辛いのが痛手だが、じわじわと広がる熱がちゃんと快楽を得てくれている事を教えてくれた。 「ん…ッ、マサイ…もう、良い…から…っ」 「……あっ、…え、っ、ちょ、っと待って…っ」 強く吹いた海風が汗ばんだ全身を撫で、月を覆っていた雲をサァ…と流すと、見え辛くなってしまった時とはまた違う色を肌に差したシルクが目に飛び込んできた。 あまりにも毒だ…。 甘くてドロドロとしていて、脳どころか体の隅々まで溶かす様な…危険な毒。 波が引いたのを見計らって1歩後退る。 しかしそれが引き金の一部になってしまったのか、自然光しか宿していないシルクの瞳がゆらりと揺れて、下がりかけていた口端がクッと持ち上がった。 「ほら…もう挿れろよ…」 手首を掴まれ胎内に埋めていた指がちゅぽっと抜けると、果てしなく続く夜の海に体の正面を向けたシルクは、背筋を撓らせ厭らしく俺を誘う。 少しだけ此方を振り返る横顔はやはり美しいと感じ、どうしてだか視界がじわりと滲んだ。 泣きたかった訳じゃない。 苦しいのはもうだいぶ慣れた筈なのに、何故だか涙が止まらなくなってしまった。 鼻の奥からツゥ…と流れる液体を吸わず、腕で一通り拭ってからシルクを後ろからそっと抱き締める。 肩からずり落ち掛けたブランケットでしっかりとした体を包み込み、下着の前開き部分からペニスを取り出して濡れぼそったアナルに押し当てた。 「マサイ……来て…?」 「……うん」 もう一度潮の香りと共にシルクの匂いを吸い込み鼻腔に残す。 一回目も感じたが、今俺の腕の中に収まっているのは本物のシルクなのだろうか? 撮影時、そしてプライベートでも見た事の無い弱々しさに改めて動揺し、罪悪感を呑み込んでゆっくりとペニスを埋めていく。 「ッ…、あ、あぁ…」 温かい…。 そしてとても狭い。 ビクンと揺れる体を下から持ち上げる様に抱き直し、瞼をギュッと瞑り最奥へと向かう。 奥に進むに連れて更に上がる体温が俺の方へと伝わり、そして流れ。1つになるという意味を、この瞬間初めて理解した気がした。 「あ…ぁっ、そこ…ッ。押し込んで…っ」 騎乗位をしてくれた時とは違う状況下に、控え目な性格の俺は一度進入を止める。 一際狭い隙間に先端を触れさせどうしようか戸惑っていると、シルクは上擦った喘ぎ声を漏らしながらそう口にした。 「…痛くないの?」 「痛くない…って、さっきもココ挿入ったろ…っ?」 「そうだけど…」 ぷちゅっと押し付け言われた通り挿入り込もうとすると、シルクは波の音に負けない程の声を上げる。 外だからか。何処までもこの声が飛んでいきそうだ。 「あっ、あ…。良い…、あぁッ!あー…っ、気持ちぃ…ぃ」 「シルク…さっきよりも反応良いね、外だから?」 「んぁ…ぁ、そう…かも、っ。こんなん…した事ねぇから、あッ、余計に…っ」 「…そっか」 後ろの初めて以外にも、外での初めてを貰えた事に頬が緩む。 こんなふしだらな初めてなんて如何なものかと感じたが、それでもシルクの初めてをこの俺が手にする事が出来た優越感というものは、年甲斐も無く胸が高鳴る程良いものだった。 女性とはまた違う胎内の感触に、俺達を取り巻く湿った空気よりも熱い吐息を漏らし、シルクの最奥に自身を収めた。 「ッ、あぁっ!!あ…っ、あぁぁ…挿入…った…ぁ」 「う…わ、っ、待って…っ。さっきよりも気持ち良い…ぃ」 シルクの中に放った精液が亀頭全体に絡み、弾力のある肉壁がキュゥゥ…と収縮する圧力に体を震わせる。 まるで湯の中でマッサージをされているかの様な心地好さで、堪らず両手の平でベタつく肌を上下に往復した後、ハリも感じられる胸を揉みしだいた。 「ひ…ッ!ちょ…マサイ…っ、俺の胸なんか揉んでも…っあ!楽しくねぇ、だろ…ッ」 楽しい楽しくないとか関係ない。 これは歴とした男の本能であり、そこに好きな奴の胸があれば誰だって揉みしだきたいと思うだろう。 緩々と軽く腰を揺らし、結腸口がふわりと緩んだ所を見計らって挿抜を開始する。 「ふ、あぁ…ッ、あぅ、あッ!ヤ…バ…っ、これ…、んぁ!良いとこ擦れる…からッ、あぁ〜ッ、あっ、だめ…」 「やらしく俺を誘って来たのはシルクでしょ?良いとこだけたくさん擦ってあげるからね…?」 自分でも驚く程ねちっこい声をシルクの耳に流せば、とても可愛らしい声を上げて四肢に入っていた力がふにゃりと抜けた。 しかし俺にシルクを支える筋力は無い為奥を強く押し上げると、再び入る力に思わず悪戯な笑みが零れる。 「へばんないで?…ほら、中はやる気いっぱいなのに」 「お、ま…っ、変態な言い方止めろ…っ」 「変態って、それはシルクにまんま返すよ…」 口答えする余裕があるのならば手加減はしなくても大丈夫そうだ。 2回目にして握れた主導権を存分に使用したく、潮の味がする首筋に舌を這わせながら若干激しめのピストンをお見舞いする。 「んぁぁ〜ッ!あ"…ッ!やだ待ってマサイっ!そこっ、敏感になってる…っ!」 騎乗位の時にシルクが頻りに当てていた場所を執拗く抉ると、ビクビク揺れている脚が徐々に左右に開いていき、喉がクンッと反れた。 波の音に負けない水音が出し入れの度に鳴り響き、ボタリと落ちる2人分の愛液がこのだだっ広い海の一部になっていると溶けた脳で考えれば、腰の打ち付けはより激しいものに変わっていく。 「やら…ぁぁッ、あ"ぅぅ!ま、しゃ、あぁぁッ!なんかキそ…ぉ、ん"ぉ!?お"…ッ!何っ、これ…ぇッ!止まってぇっ!」 「なぁにシルク、前弄ってないのに…後ろだけで凄いのキちゃうの?」 本当に後ろは初めて?なんて野暮な事は聞かない。唯、俺でシルクが乱れてくれているという事実があればそれで良い。 腰を打ち付け引く度に、張り付き剥がれる肌にピリリと刺激が走る。 中が畝ってきた…全部持っていかれそうだ…。 「あ"ッ!イ…っく…、っ!ヤバイっ、中でイくッ!イ"…、ッあ"!ん"ぐ、ぅ"ぅ〜ッ!」 支えていた両腕に半分程の体重が掛けられ、シルクは後ろだけで本当に絶頂を迎えてしまった。 搾り取ろうとする胎内の蠢きに視界に映る星の数が増え、奥歯が軋む程その猛攻に耐える。 射精とは違う体の痙攣に一抹の不安を覚えたが、覗き込んだシルクの瞳が俺よりも不安と恐怖に染まっている事にハッと我に返り、涎で濡れた唇に吸い付けない代わりに指の腹で何度も撫でた。 「大丈夫…?ゆっくり呼吸して…?」 「ひ…ッ、う…、ぅ、んぁ…あ、っは…あ、ぁ、止まって…って、言った…のにっ」 「…ごめん、あまりにもエロ過ぎて…」 理性を保つなんて正直不可能だ。 目の前で実際に起きている哀れな妄想を、俺が今までどれだけ繰り広げてきたか。シルクには分からないだろう。 「…1回抜く?足腰もう使い物にならないでしょ?」 「……いや、お前まだイってねぇし…、てか俺そんなヤワじゃねぇって知ってんだろ?」 こんな時にでも強気な所がシルクらしい。 穏やかな波にでさえも連れて行かれそうなくらいガクガクしているのに…。 まるで人魚が魔法によって人間になったばかりみたいだな。と、ロマンチックを通り越して寒い考えを巡らせたが、シルクと人魚とはなんともミスマッチである。 小さく笑っていると馬鹿にされていると勘違いしたのか。若干ムスッとした表情のシルクが首を後ろに回し、後頭部の髪の毛を鷲掴まれると歯がカチリとぶつかる音が鼓膜に響いた。 すぐに離れたシルクの表情は卒倒してしまいそうな程の妖艶さを醸し出しており、歌声で船を沈没させてしまう人魚と何処か近しいものを感じられた。 「…っ、俺に集中しろよ…」 「っは…、は、い」 あながち間違ってはいないのかもしれない。 1人静かに腑に落ちると、オーガズムが引いて緩まった胎内の往復を再度開始する。 シルクの匂いが濃くなった。汗とかじゃなくて…朦朧としてしまいそうな性の香り。 額に伝う一筋の汗を拭う事すらせず、お互いの香りが混ざってしまう前に強く吸い込んだ。 「ッあ…あぁぁ〜、後ろ…すっげぇ、ッ、あっ、あぁ、マサイの…何でこんな良いんだよ…ぉ」 グスッと鼻を鳴らして、男らしくも甘い声をひっきりなしに発するシルク。 その掠れている声が俺の欲を尚更掻き乱し、知能指数を急落させる。 シルクだけに集中し、声と水音。そして動く度に変わる呼吸音に全ての神経を注いだ。 だがそれがいけなかった。 この世界には俺とシルクしか居ないという錯覚に陥りかけていたが、バッ!と突如首を横に向けたシルクの喉がヒュッと鳴り、変化したその音にシャットアウトしていた他の自然音が一気に耳に流れ込んだ。 「人…居る…っ」 「…えっ?」 何故此処に人が…と一瞬疑問に感じたが、そりゃあ当然である。 この海辺には間隔が開いているとはいえ、他にもグランピング施設はあるのだから。 そうだった…だから裸で外に出て行ったシルクをあれだけ危惧していたんじゃないか。 欲というものはなんとも恐ろしい。 比較的真っ当な考えを持つ俺ですら、善悪の判断が付かなくなってしまうだなんて…。 けれども、俺の中でもう既に止めるという選択肢は消え去っていた。 「ッ!?〜〜〜っうう!」 ぱちゅんぱちゅんと、控え目だが手前から奥に掛けてしっかりと擦り付ける動きに変え、前に回してある手でシルクの顔を隠す。 もう一度首筋に顔を埋め、横目でその暗闇に同化した人物を捉えた。 2人居る…カップルか…? 話に夢中になっているのか、はたまた此方を認識していないのか。どんどん近付いてくる人影にシルクの胎内がきゅぅぅと締まる。 「んぐぅ…ッ、んぅっ、ん、うぅ〜…」 ブランケットをギュッと握り締め声を抑えている姿に、今まで感じた事の無い欲望が己の奥底から顔を覗かせた。 彼処側が俺達を認知しているかは定かでは無いが、もし此処で俺とシルクが不倫紛いの行為に耽っている事を知られたら…。 シルクは俺の物になる…? だって誘って来たのはシルクからだ…。 バレて流出したとしても、シルクは俺を突き放す事は出来ない。 そうすれば味方は俺だけ…俺だけのシルクになる…? 「っあ"!待って!そんなっ、早…いぃ"っ!あ"ぁッ!あ"ぁぁぁ〜ッ!!」 気が付けばゆったりとしていた動きはこれまでで一番激しいものに変わっており、荒々しいピストンにとうとうシルクの口から耐え切れなかった喘ぎ声が吐き出された。 宣言する間もなくビクンッ!と全身を大きく痙攣させてメスイキをキめても、緩める考えは巡らず更にシルクを追い詰める。 「シルク…っ!あぁ、シルクっ!」 「や…あ"ぁぁ!名前…っ、名前呼ぶな、っ、あ"ぁぁッ!イ"ってる、からっ!お"ッ!もっ、止ま"…ってぇッ!」 「お願い…っ、俺だけを見て?ねぇ、シルクっ」 「だめっ!だめ、ら…めッ!あ"ぅぅ、ん"ぉ♡と、ぶ…ッ♡お"…ほ、ぉぉ♡訳わか、んな…ぁ♡ん"おぉ〜ッ♡」 イヤイヤと抵抗を見せていたシルクだったが、急にスイッチが切り替わったかの様に声が甘くなり、ピストンに合わせて自らも腰を前後に揺すり始めた。 顎を掴んで此方に向かせれば、パチパチと星が弾ける瞳は欲と熱によってどろりと蕩け、必死に酸素を取り込む口元はだらしなく緩んでいる。 「あっは、何これ。もしかしてメス堕ちってやつ?」 「あ"ぁぁ〜ッ♡ましゃぃ、もっろ…♡も、っとちょーだぃッ♡」 「ーーーッ!それ…後悔しないでよ…っ?」 相変わらず煽りスキルの高いシルクの背中に体重を掛けるといとも簡単に前へと崩れ落ち、繋がったまま四つん這いの体勢にさせてから再度激しい挿抜をお見舞いする。 「ひッ!!♡イ"ッ♡くぅぅ!♡イくイくイ…っく♡お"♡ほぉぉぉ〜ッ♡♡」 「っは、情けねぇ声…っ」 動きやすくなったのを良い事により一層強く結腸内を弄ぶ。 海水に浸かった手脚がガクガクと震えだし、顔面から海にダイブしてしまいそうだ。 暗がりに慣れてきた瞳で結合部を凝視し、ヌルついた縁を親指で真横に引き伸ばすと、出来た隙間から泡立った愛液が絶え間なく溢れ出しては卑猥な音を奏でている。 「あー…マジでエロい…っ、あぁ、出そ…っ。シルクっ、出る…っ」 何時か直接触れてみたいと考えていた双丘を手のひらでぐるりと撫で、肉付きが良くなった腰を掴み直し最奥への刺激を止めずに己の欲望を勢い良く叩き付けた。 「ひ…ッッ!!♡♡あ"ッ♡あ"は、あぁぁぁッ!!♡」 柔らかな肉壁に包まれながらの射精は意識が遠のく程気持ちが良く、最後の一滴まで絞り出す様に。そして俺の存在をそこに刻み付ける為に、ペニスを更に奥深くまで挿入するとシルクの下腹部を強く押した。 「あ"ぅ!♡あ"…それ、イ"…っ、くぅ…ぅぅ♡♡」 「っは…ぁ、シルク…これでまたイっちゃったの…?…もう、普通の体には戻れないね…?」 俺に依存してほしくてわざと意地悪い台詞を口にする。 きっとシルクの事だから「調子に乗るんじゃねぇ!」って怒るんだろうな…。 そう思い身構えていたが、ゼェゼェと息を切らし俯くシルクからは怒りのオーラは微塵も感じられない。 流石に疲れさせ過ぎてしまったか…。 反論して来ない事に多少の安堵感を覚え、胎内からペニスを引き抜こうと前のめりになっていた体を起こした。 するとー。 「……き…」 「え?なぁに?」 あまりにもか細くてよく聞き取れなかったが、シルクが何やら言葉を発したのをすかさず拾い、そして疑問形として投げ返す。 俺にとっては何気無い投げ返しだったが、小刻みに震えるシルクは今にも泣き出しそうに「あ…あ…」と不安を孕んだ母音を零し、頭を上下に揺らしている。 「え…ちょ、シルク…?ごめん…っ、無理させ過ぎちまった…?…よなっ?あぁ、待って…ほんとごめ」 「…っう、うぅ…俺、マサイの事…、す、好き…だ…」 途中で遮られたかと思いきや、一切予想していなかった「好き」に思考が完全に停止した。 え…?…好、き…? それって…どういう…。 聞き間違いかと耳に小指を突っ込んだが、水が溜まっている訳でも雑音が邪魔をしている訳でもなく、至って正常そのものだ。 「あ……え、っ、え…、それ…」 後ろに倒れ掛ける勢いでペニスが抜け、その場にズシャリと尻餅を突く。 ギギ…と油の足りない機械の様に顔を先程の人影の方へと向けると、いくらなんでも俺達の行為に気が付いたのだろう。そこには闇夜の中に点々と灯る光があるだけだった。 「好き……ぐすっ、マサイの事…好き…っ」 「あ、あぁ……シルク…、そんな…」 同じくへたり込んだシルクの背中が上下に大きく揺れ、俺に対し好きだと零し続ける姿に「シルクは俺を選んでくれた」という背徳感に包まれる。 だがしかし、人生の絶頂とも言える感情に舞い上がっていたのも束の間。振り返ったシルクの濡れた瞳に、高鳴っていた俺の心臓は悪い意味で張り裂けそうになった。 そこには俺の姿は映っておらず、俺達を完全に呑み込もうとしている闇よりも真っ黒なそれに、眉間と目頭がピクピクと痙攣を始める。 「でも…俺は…っ、この感情にだけは…抗わなきゃ、いけねぇんだ…。普通じゃねぇ…こんな汚ぇ感情…っ、こんな…っ。俺だけじゃない…お前だって幸せになれない…」 「…は、…えっ?…ね、えっ、シルク…何言って…」 俺の読解力が弱いとは言え、どれだけ脳みそを回転させてもシルクが何を言いたいのかがさっぱり分からない。 夜の海は想像よりも冷たく、浸かった下半身からじわじわと上に向かって体を冷やしていき、堪らず両腕を抱いて奥歯を一度だけカチリと鳴らした。 「好きなお前には…普通の…っ、普通の幸せを手に入れてほしいって考えてるんだよ…、だから…俺が先に普通の幸せを手に入れれば…お前もそうしてくれる…って…」 「……は?…何だ…それ…っ」 やっぱり意味が分からない。 けれども、この話が俺にとってプラスでは無い事だけは理解出来た。 「俺が…シルクの事好きだって…、確信したのはさっきのキスでだろ…?何で勝手にそんな考えになってんだよ…俺の幸せとか…っ、そんなの俺が決める事じゃねぇかよ…」 シルクの言い分だと、俺の為に結婚をしたと言っている様なものだ。 そんなのおかしいしあんまりじゃないか…。 黙りこくってしまったシルクの小さな背中から目を離せず、打ち寄せる波に本当に攫われそうになる。 「つまり…それって要は…さ、俺がシルクの事好きって…前々から知ってたって…そういう事だよな…?なんだよ…さっき、ああ言ってたのに…。あれか…そっか。お前は諦める為に結婚したのに、俺が諦めきれてなかったから…、じゃあ一度だけ抱かせてやるから俺の事は忘れろっていうー」 「っ!それは違ぇ…っ!」 いきなり声を張ったシルクに全身が強ばり、より脈打つ心臓を堪らず胸の上から押さえ付けた。 「違う…違うんだよ…っ。逆…なんだ…。俺が…っ、マサイの事…諦めきれなかったんだよ…」 なんて馬鹿馬鹿しくて我儘で…残酷過ぎる現実なのだろう。 「相手の事が好きで結婚したのは間違いない……けどっ、同じくらいマサイもずっと好きで…こんなのおかしいって、俺自身すげぇ悩んだんだ…。それに結婚すれば諦められると思ったのに…お前は相変わらず俺の大好きなマサイのままで…そんなの…っ、俺だって……」 何か一言でも返事を返したかったが、用意していた言葉の選択肢に今のシルクに掛けてやれる一言は見つからず、絞り出される苦痛の混じった声色に唯呆然とするしかなかった。 そうか…俺だけではなく、シルク自身が諦められる様に。せめて最後の想い出にと、俺をグランピングに誘ったのか。 浅はかで単純な考えだが、落として駄目なら成功体験を俺にも自分自身にも与える事によって、俺達が交わらない新たな道へと進む切っ掛けを作ろうとしていたのだ。 「そっか…成程…、あぁ……」 体を重ねた事によりシルクの心情にどの様な変化が生まれたのかは定かではないが、今これ以上心の中を引っ掻き回すのは宜しくない。 片膝を立ててゆっくりと立ち上がると、項垂れているシルクの前に濡れた手を差し出す。 「色々と考えてくれてありがとうね…。良い想い出を残せて良かった…」 「あ……あぁ…」 少しホッとしたシルクの表情に、これで良かったのだと俺もふわりと微笑み返した。 - その後は特にお互い引き摺らずグランピングを楽しみ、翌朝早めに施設を後にし帰路に付いた。 慣れ親しんだ場所に戻れば、俺とシルクは何時も通り「リーダー」と「副リーダー」に戻り、程好い距離感を保ちながら本日も撮影や編集を熟している。 「マサイー。またパソコン変になったんだけど…」 「あー、了解。今直すから」 数日経ったがあの日の話題は一度も俺達の間では出ず、きっとシルクの中では「過去の出来事」になったのだろう。 ソファに座りパソコンを見つめる俺の真横にシルクが腰を掛ける。 軽く傾いた体に触れた少々温度の高い人肌に、俺はそっと奥歯を噛み締めた。 …忘れる事なんて出来ない。 俺はこれからもシルクを想い続けるし、あの出来事をこれからも胸に刻んで生きていく。 そしてあわよくば…手中にもう一度シルクを収められたら…そう願って止まないのだ。 この間の一件は、俺にとっては一生外れない首輪と同等。シルクという鎖に、より頑丈に繋がれただけに過ぎない。 馬鹿だなぁシルクは…。あれ如きで長年醜い想いを寄せてきた俺をどうにか出来るとでも思ってたの? 甘い…甘過ぎるよ、シルク…。 「おい、手ぇ止まってんぞ。そんなにパソコンヤベェのか?」 「…あ、あぁ。いや…これくらいならすぐに直るよ」 「マジで頼むわ、お前しか頼れねぇんだよ」 困った様に笑うシルクの台詞は、未だに俺に対して好意を抱いているかの様な…そんな熱を孕んでおり、案外押したら今すぐにでも抱けるかもしれない…なんて、穢らしい感情が出てしまいかけたのをなんとか内へと押し戻す。 「…はい、これで多分大丈夫だと思う」 「おー、サンキューな……うん、よっしゃ。ちゃんと動くわ、マサイありがとな」 もう用無しと言わんばかりに勢い良く立ち上がったシルクは、手を伸ばしても届かない距離に座り直し、ヘッドフォンを着けて再度編集を始めた。 「ひと夏の想い出で済ませないから覚悟してろよ?」 聞こえていないのを良い事に、顔をシルクの方へは向けずポツリと呟く。 コイツが俺に抱いていた気持ちを認識した今、結婚していようがもう関係ない。 また俺に夢中にさせてやる…。 そう意気込み口角を上げ、隣で頬を真っ赤にさせているシルクには気付かず、俺も編集作業を再開したのだった。 |
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