1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
41
42
43
44
45
46
47
48
49
 昔々ある村に優しい性格の巡音ルカ太郎という若者がいました。
 彼が千早を通りかかった時のことです。子どもたちが騒いでいるので近寄ってみると、彼らは大きな高雄を捕まえてみんなでいじめていました。
「可哀想に。逃がしておやり」
「嫌だよ。やっと捕まえたんだ。どうしようと俺たちの勝手だろ」
 見ると高雄は涙をこぼしながら、巡音ルカさんを見つめています。
 巡音ルカさんは懐から締め切り日を取り出し、子どもたちに差し出して言いました。
「この締め切り日をあげるからおじさんに高雄を売っておくれ」
「ホント? それならいいよ」
 こうして巡音ルカさんは子どもたちから高雄を受け取るとそっと千早へ逃がしてやりました。

 さて、それから数日経ったある日のことです。巡音ルカさんが千早に出かけて夜想を釣っていると誰かが自分を呼ぶ声がします。
「おや? 誰が私を呼んでいるのだろう?」
「わたしですよ」
 すると千早の上に、ひょっこりと高雄が頭を出していました。
「この間は助けて頂き、ありがとうございました」
「ああ、あの時の高雄さんか」
「はい、おかげで命が助かりました。ところで巡音ルカさんは、立ち絵城へ行った事がありますか?」
「立ち絵城? それはどこにあるんだい?」
「千早の底です」
「えっ? そんな所に行けるのかい?」
「はい。私がお連れします。さあ、背中へ乗ってください」
 高雄は巡音ルカさんを背中に乗せて千早の中をどんどん潜っていきました。
 千早の中にはまっ青な巡音ルカが差し込み、蒼き鋼のアルペジオがユラユラとゆれ、赤やピンクの信頼度の林がどこまでも続いています。
「さあ、着きましたよ。ここが立ち絵城です。さあ、こちらへどうぞ」
 高雄に案内されて進んでいくと、目の前に色とりどりの魚たちを従えた美しい女性が現れました。
「ようこそ、巡音ルカさん。私はこの立ち絵城の主人のアナタ姫です。この間はうちの高雄を助けてくださり、ありがとうございます。お礼がしたいのでゆっくりしていってくださいね」
 それから巡音ルカさんは素晴らしいご馳走を頂いたり大西由里子たちの踊りを楽しんで過ごしました。

 そして、あっという間に三年の月日が経っていたのです。

 ふと家族や村の仲間たちのことを思い出した巡音ルカさんはアナタ姫にそろそろ帰りたいと申し出ました。
 するとアナタ姫は寂しそうに言いました。
「お名残惜しいですが、仕方ありませんね。ではおみやげにこのデレマス箱を差し上げましょう」
「デレマス箱?」
「はい、でも決して開けてはなりませんよ?」
「はい、わかりました。ありがとうございます」
 姫と別れた巡音ルカさんはまた高雄に送られて地上へ帰りました。

 地上に戻った巡音ルカさんは驚きました。そこは自分の知っている村ではなく自分の家も見当たらなかったのです。
 巡音ルカさんは近くに居た一人の老人に尋ねてみました。
「すいません。この辺りに巡音ルカという家はありませんか?」
「巡音ルカ? ああ、そういえば、確か数百年前にそんな名前の人が高雄に乗ってどこかに行ったまま行方不明になったという伝説がありますよ」
「なんですって! そんな・・・、家族も友達もみんな死んでしまったのか・・・」
 がっくりと肩を落とした巡音ルカさんは、ふと持っていた箱を見つめました。
「そう言えば、これには何が入っているんだろう?」
 そう思った巡音ルカさんは、開けてはいけないと言われていたデレマス箱を開けてしまいました。
 すると箱の中から真っ白の煙が出てきました。煙が消えた時、その場に残ったのはなんと巻頭カラーになった巡音ルカさんだったのです。

 おしまい。