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サニーが風呂から上がって部屋に戻ると、ベッドの上に布団の山が出来上がっていた。恋人同士の同棲とはいえ、双方一人の時間も欲しい派なので寝室は別だ。その相手がアポ無しでこんなところにいるのは、急にそういう気分になって交渉に来るときか、何か今すぐ語りたいような出来事があったか、
「なに。寂しくなっちゃった?」

ユーゴを奥へ詰めさせて、自分もベッドに入る。多少狭いがいつものことだ、追い出したりするほど狭量でもない──少なくとも今日は。
ユーゴはすぐさま俺にくっついてじっとしていたかと思えば、しばらくしてから「ドラマが」とボソボソ呟き始めた。聞いてないけど。今日は最近二人で見ているドラマの放送日で、ちょうど主人公の恩師が亡くなる回だった。特に彼を推していた訳ではない自分も涙を誘われるような感動的なシーンで、かの人物を気に入っていたらしいユーゴはなおのことショックを受けていたと思う。ので正直、今晩の彼の来訪は想定していたことではあった。言い訳のように紡がれ続ける言葉にふんふんと頷き続けていると、ふとユーゴの声が途切れる。
「いなくなるなよ」
語尾が揺れた気がした。あるいはただ、自分が眠りに落ちかけただけだったかもしれない。
意識はもう夢路を辿りそうで、それでも湿った声がここにいてと呼ぶ。本当にだめそうな時ほど他人の名前を呼べない男が。
「……ならねーよ馬鹿」
べし、と額を叩いた指先から小気味のよい音がする。いなくなるならお前の方だろ、と出かかった言葉はかろうじて飲み込んだ。きっとお互い、”ずっと”を信じ切るにはここまで負ってきた荷物が少し重すぎる。またいつか同じ問答を繰り返すのかもしれない。

でもまあ、明日の朝起きて一番に目にするのが相手の顔であることくらいは信じてもいいだろう。