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ぼんやりとして目が覚めると、朝日より眩しい男の寝顔が目に入る。
 気配に聡い男は独り寝の方が何となく性に合うのではとずっと思っていたが、そういうものでもないらしい。
 宇髄と善逸の部屋は同じだ。同じだと言うことは寝所も一つだ。
 一応、布団は二つ並べられるが、片方が使われることはあまりない。
 宇髄の腕は太い、下手をすれば女性の足くらいはある。さすがに善逸の足よりは細いと思いたいが、体格差がここまである男の腕枕は決して居心地がいいものではない。
 それでも善逸を抱き寄せてくる腕は善逸を安心させてくれる。そう思えるくらいには慣れた。
 慣れてしまった。
 ぼんやりと宇髄の顔を眺めていると、男もすぐに目を覚ます。というかいつも善逸より先に起きているのではないかと思うのだが、確かめた事はない。
 半覚醒状態で頭が働かない善逸に毎朝飽きることなくちょっかいを出すのが、この男の日課のようになっているからだ。
 ちょっかいの内容はさまざまだ。善逸が嫌がれば口を吸われるだけで終わることもある。けれどまったく何もされない朝というのは今のところ皆無だ。善逸としては普通に起きたい。健やかな朝を迎えたい。
 善逸が独り寝をしていたのはそんなに昔のことではないと思うのだが、既に離れで生活をしていた時期が懐かしく、口にはしないがちょっとだけあの頃に戻りたい。
 離れで暮らしていた期間がわりと長かったので善逸なりの生活ペースが出来ていたのだ。
 生活が母屋になってから、善逸の生活はまた変わった。
 それはもうがらりと。 
 そう思いながらぼんやりと、至近距離にある端正な顔を眺めていると、するり。と寝間着の裾を宇髄の厚い掌が割ってきた。
「……ん…」
 まだ眠い頭で抗うが、悪戯をする手の動きは止まらない。
 朝の生理現象で兆している善逸をそっと握られた。
 今日はわりと宇髄の興が乗っている日らしい。どうしてこの男はこんなに朝から元気なのか。
 善逸は昨晩の名残もあってまだ腰が重いし全体的に身体が怠い。
「……ゃだ」
 それなのに宇髄に触れられて、目が覚めていて正気なら我ながら引っ叩きたいような声が漏れた。何が嫌だ、だ。嫌なら嫌だという声を出せ。
 案の定、なんの制止の効果もない声は相手を調子づかせるだけだった。
 宇髄の掌が慣れた動きで善逸の足の間を探る。太い指が弛緩した善逸の自分すら知らない中を探っていく。
 まあ自分の秘部など普通は知らない。宇髄は今では善逸より善逸の身体のことを知っている。
「奥、入る」
 囁く声が笑っている。ずるりと指が二本、昨夜の行為の名残を残す善逸の中に入ってきた。
 眠いのか、気持ちがいいのか「……ぅんっ……」と体の内側を暴かれて声が漏れた。
「……やわっけえな」
 善逸の耳を囓りながら吹き込む大人の成熟した声が低く重い。
 明るい日差しに似つかわしくなく、どろりと善逸を浚っていく。
「……くるし…」
 自分を苛む男の存在か、声か、体を探る動きであるのかその全てに対する抗議であるのか、善逸がはくはくと抗議の声を上げると宇髄が笑った。
 寝起きに聞くこの男の声はことさらに、甘い。
「ほら、入るぜ」
「……ん……でも……」
「……力抜けてっから、奥まで、いいトコ当たんだろ?」
 同時にぐっと指を押し込まれて、自分の口から聞くに堪えないような嬌声が漏れた。
「……ぁっ! ぁッ……!」
 跳ねた腰を宇髄の左腕が支えてきた。宇髄は左腕の手首から先がない。右手は善逸の後ろを先ほどからぐちぐちと探っているから、すっかり勃ち上がった善逸の性器は切なく放置されて震えている。
 今更だが明るい日差しの中、宇髄に見られながら自分で慰めるのも抵抗がある。
 ヒクヒクと蠕動する腹を、宇髄の腕が押してきた。
「触ってやれよ。イきてえんだろ?」
 悪辣な声が甘く囁いてくる。本でしかその存在を知らない悪魔はきっとこの男と近い姿をしている。
 そして悪魔は天使よりずっと美しいに違いないのだ。
 でなければ人間は誘惑に負けない。

「……仕事がある日は止めてって言った」
 ぶすくれた声で善逸が言うと、濡れた手ぬぐいで身体を清めてくれていた宇髄が面白そうに笑う。何が面白いのかと善逸的には腹立たしい。
 年齢も違えば経験値も違う。宇髄は善逸のことを決して蔑ろにすることはないが、房事のことはまだ一方的な宇髄の主導だ。善逸は振り回されて翻弄されて終わる。
 善逸は当然だが宇髄としか性行為をしたことがない。男同士の行為というのは本当に未知で、最初は想像すら出来なかった。男でも挿入を伴う行為が出来ると教えられ、実践され、男でも女のように慣れれば気持ちよくなれると、宇髄が初夜からとても丹念に善逸を馴らして解したので、二人には結構な体格差があるがなんとか今は後ろで宇髄の性器をすべて受け入れることは出来ている。そしてそこで得る快楽も知ったが、善逸の未熟な身体はまだそれを受け止めるには怯えがある。
 だからまだ性的な快感は射精が一番強い。
 触れられたら気持ちが良い。後ろを宇髄の長い指で抜き差しされているのはもどかしいような快感がある。抱かれた当初に感じていたような痛みや異物感はもうない。寝起きは特に余計な力が入っていないので余計だろう。
 要するにこの男は善逸の身体が弛緩しているこういう時間を狙って、どうも善逸を開発しようとしている気がする。
 そう思うのはこういう時間である場合、宇髄自身が善逸のなかに挿入って来ることは少ないからだ(まったくの皆無ではない)。だから朝の一方的に翻弄されているこの時間が善逸はあまり得意ではない。