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『残夏と一休み』

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「よ、耀さんー?」
「んー」

 控えめにさせた呼吸の音だけで満たされそうな部屋に、子供のように彼氏に抱っこされている。

「あ、あの......」
「なーにそわそわしてんの」

 筋肉質な彼のやや高い体温に包まれているのと相まって、二人の間に纏っている空気があまりにも湿度が高い。

「だって、近すぎ、っ……」

 言わんばかりに、腰に回された腕により一層きつく抱きしめられた。短パンで露わになった太ももに直接置かされた大きな手のひらに、さらに居て堪れない気持ちにさせられた。

「くっつくの、嫌?」
「いや大好きなんだけど、そうじゃなくてっ」

 付けているクーラーが肌に纏わりつく空気を冷ましてくれるはずだが、内側から燻った熱はやはり下がりにくく、じっとりと膝裏から汗がにじんでいると感じた。

(……緊張で汗が出やすいんですよ、私って)

 同棲してから初めての夏を迎えた。クーラーの冷たい風が肌を撫でるものの、ジワジワと体の内側に広がっていく熱と、膝裏から滴る汗が不安と緊張を物語っていた。

「そんなに嫌がられたら寂しいね」
「うっ、それ言うのは、ずるくないんですか……」

 言ったばかりに、非難に混ぜた「甘え」を汲み取った彼は、首元にすりすりと頭を擦って来た。

 甘えたがりの一面をなるべく露わにしないつもりでいるから、こうして彼からのスキンシップはやはり嬉しくなるもの、離してってなかなか言えない。

「んもー、どうして今日こんなにも甘えん坊さんなんですか」

 緩い弧を描いた彼の薄い唇が耳元に寄せられて、理由になっていない言葉が紡がれた。

「それは原因になってた張本人に聞かないとね」

 揶揄うようにくつくつと笑っている声が色気を帯びた声に変わり、そしてそれが鼓膜を震わせた瞬間、かっと顔に熱がさらに集まった。

 途中から吐息に色が抜けきらないことは見透かされているとは思っていたけれど、こうも隠したいところを突かれては何も取り繕えず、反射的に下を向いて血色の良すぎる頬を隠した。

 だが浮かんだままに煽られるのは私だけではないと、彼の首元に手を当たるときちょっとべたついている生肌の感触に気づかされた。

「……後で、一緒にシャワー浴びよっか」
 
――夏の末に残された熱に揺らいで、湿気を多分に含んだこの視線から、目を逸らしてはなれなかった。




🐶🌙